開いた瞳で見る夢は 2
「・・・・・・。」
頭が真っ白になるとは、こういう状態の事を言うのだろう。
自我の存在しない、空白の時間が流れる。
その間にも和葉の両腕は平次の首にしっかりと巻きつけられ、
抜け殻の様な平次の体をゆっくりと自分の方へと引き寄せて行く。
「・・・かっ、かずっ、」
一時は止まったとすら感じた心臓が、
何十個にも増殖したのではと感じる程の活動を見せると共に、
ようやく取り戻しかけた自我は、その口から上ずった言葉を発射させたが、
この状況で相手を目覚めさせるのはまずい。
自分には一切、まったくと言って良い程やましい点はないが、まずい。
そう、本能で感じ取り、平次は何とか口をつぐんだ。
この状況を、「やったぜベイベェ。」などと思える程に、二人の関係は甘くない。
・・・落ち着け俺、そうや、ゆっくりこの手をほどいて吐息が耳にとかそういう事やなくて!!
こいつが目ぇ覚まして何ぞ誤解してええ匂いがして来たら大変って何言っとんねん俺!!
だいたいこいつも突然何でこないに柔らかいって何がやねん!! どこがやねん!!
懸命に、頭の中で考えを整理しようとするのだが、
服部平次十七歳の置かれた状況がそれを妨げるべく、
さまざまな贈り物を彼の五感へと配達して行く。
すれ違う様な角度に頭と頭があり、相手の表情が見えない事は、
不幸中の幸いかもしれなかった。
現在、和葉の両脇に両手をつき、膝立ちを保っている体制は、
相手に雪崩れ込む様な真似をかろうじて避けさせてはいたが、
変に逆らっても、反動で相手を目覚めさせてしまう様な状況である。
そんな状況をあざ笑うかの様に、和葉の手はどんどん平次を引き寄せて行く。
「・・・・・・。」
目覚めさせてはという危惧以前の、
逆らう事の出来ない感情が、平次の脳髄を支配して行く。
そうして、
そのまま、和葉の腕の中にしっかりと収まり、
ぎゅう・・・と、抱きしめられた時は、
もうどうなっても構わない的な、ある種の恍惚感と共に、
服部平次は再び自我から手を離しかけたが、
天国もつかの間、
次の瞬間、自分を抱きしめた和葉の、吐息混じりのつぶやきが、
違える事はない程の至近距離で自分の耳に届けられた瞬間、
彼は地獄へと、突き落とされる事となる。
「工藤君・・・。」