宵待草の花の色 5


        「っておい、今何時や!? はよ帰らんとお前・・・。」
        取りあえずは一件落着と考えた平次だが、
        ふと我に返って、現在の時間を考える。
        確認するのが恐ろしい時間帯である事は間違いない。
        自分はまったく構わないが、和葉の事を考えてそう声を上げたが、
        「大丈夫なんちゃう? ヘイジクンと一緒やったらウチの親、何も言わんし。」
        和葉は淡々とそう返した。
        本日の予定は、確かにそうだったし、
        家を出る際にも親にはそう告げてきた。
        こんな時間まで帰らなくても携帯に何の連絡も入らないのは、
        帰りに平次の家に寄り、そのまま泊まったくらいの推測がなされているのだろう。
        「・・・・・・お前、この期に及んでまだそんな嫌味を・・・。」
        当分このネタでやり込められるのだろうかという不安と、
        相手の親に、そんな事が問題無いと認識されている、
        そんな関係は、良い事なのか悪い事なのという思いから、
        平次は息を吐き出した。
        「・・・せやけどな、そんなんで親が安心しとるんやったら、
        予定が変わった時にはすぐ連絡せぇや。
        こないな時間まで外におって何かあって、
        親は俺とおるから言うて安心しきって処置遅れたじゃ、
        シャレにならんへんねんで。」
        やり込められはしたものの、
        和葉の楽観的な考え方は、どうにも危ういと考え、
        平次は咳払いを一つ、きつい口調でそう告げた。
        実際の所、もっと強く言っても良かったのだが、
        和葉の予定を変えさせたのが、他ならぬ自分だと言う所が泣き所である。

        「・・・・・・。」
        和葉が黙り込んでいるので、
        一瞬、泣くか、怒るか、などと不安になったのはつかの間、
        和葉は「ぷ。」と一言、次の瞬間には、せきを切ったように笑い出した。
        「お前なぁ!! 何笑っとんねん!!」
        「ご、ごめん、せやかて・・・平次、お父ちゃんみたいなんやもん・・・。」
        和葉の対応に、平次が真顔になればなる程、
        ぶはーと、苦しそうに和葉が笑い出す。
        「おと・・・。」
        憎からずの相手に言われる言葉としては、
        ワースト10に入るであろうその言葉に、平次が絶句する。
        「さっきかて、こないな時間まで表におったから言うて怒鳴り込んで来るし・・・。」
        先程のファミレスの一件を思い出して、和葉がくすぐったそうに笑う。
        自分の父親に似ていると言うより、
        世間一般の父親像に平次の行動が重なったのだろう。
        「・・・・・・・・・。」
        そうでは、無い。
        正確には、自分の感情があったのは、もっと別の所だ。
        だがしかし、隠すべき所は隠していたと思うし、
        バレていたら、それこそ赤っ恥ではあるのだが、
        この解釈はあんまりなのではないだろうか。
        「でも今度柳沢君に謝らんとな、ウチのお父ちゃん厳しいんよって。
        その為にはやっぱ、香と仲直りしてもらわんと。」
        脅えまくっていた柳沢、もっとも彼の本能の方が、
        和葉の解釈の何倍も確かなのだが、彼の様子を思い出し、
        和葉はすまなそうに、けれど平次の事を揶揄して悪戯っぽく笑い、
        二人の仲を祈りつつ、そんな言葉で結んだ。
        「そう言うたらそんな映画あったなぁ、
        駆け落ちした二人が、駅か何かで父親に連れ戻されるやつ。
        何てタイトルやったっけ?」
        「・・・ボケ。」
        楽しそうに、尚もそんな事を言い募る和葉の言葉に、
        ほなら何かい、柳沢がお前の駆け落ち相手で、俺は親父役かっ!!
        と、若き舞台役者のごとく、配役に物申したいのを我慢して、
        すべてを総括した一言で平次はそれに答えた。
        「はいはい、心配してくれたのにえらいすんません。」
        平次の台詞に、これまた違う解釈をして、
        冗談めかして和葉が謝罪する。

        「ったく。」
        と、ため息を一つ。
        それでも、すっかり元通りとなった和葉の機嫌に、
        まぁ良いかと考えてしまうのだから、形無しも良い所なのだろうか。

        果たしてその機嫌は、改めての約束は受け入れてくれるのだろうかと考えつつ、
        平次はゆっくりと、青白い光りの点在する夜空を仰いだ。

        終わり


        サンデー19号、やらかしてくれた服部平次のその後を思いつつ書きました。
        その後フォローが無かったので、のびのび書いたものの、
        次の平和登場編ですべてを覆す様な展開があったらと脅える、
        そこが原作に続く話の恐ろしさですが、本編近くラストまでやらかして何を今更花屋堂。

        本来の考えといたしましては、ありゃなんぼなんでもあんまりだろって事で、
        和葉はしばらく口を聞かず、平次も最初は謝るものの、最後にゃ逆ギレという、
        バッドエンディングしか思いつかず、そこまで落としたら後は甘くなる一方?
        と、どうにも苦手な分野になだれ込みそうだったので、結局こんな感じに・・・。

        しかし、全体通しての皆様の疑問、ハイ、あたしも思います。
        今何時だ!! と。
        電話した時点で20時、そこから事件解決まで、どんなに早くても21時、
        更にそこから三時間・・・米花→東京、大阪→寝屋川も考えなければなりませんが、
        そこはまぁ省くとして、寝屋川到着時で0時ちょい、更に・・・。
        平次はともかく、ウチにおける遠山和葉、夜中に出歩き過ぎですな。
        何だかんだで平次はきちんと送り届け、理由も言って謝りそうですが、
        面倒なので親は出掛けていたという、「真夜中の魚」と同じ状況をご想像下さい。

        さて、今更ながら白状いたしますが、大阪は寝屋川市、
        あたくし、まったくと言って良い程知識がありません!!
        プールも接骨院もファミレスも何もかも、常に何の根拠も無く出しております!!
        (ちなみに今回と「真夜中の魚」のファミレスは同一。←どうでもいい補足。)
        いや、半端に調べてもって事で、もう何から何まで想像、架空の街。
        つーかどうして米花がごとく、寝屋川も架空の街にしてくれなんだ、東尻までやらかしといて!!

        オリキャラ、柳沢と北見。
        役割はと言えば、一重に平次の嫉妬を煽る為ですが、
        ま、深刻な二人の面倒を見ていた事で、和葉には淋しさを忘れていて欲しかったのと、
        似たような境遇の香と自分を比較して、少し素直に・・・みてぇな思惑もあり。
        可愛くないと考える所もまた可愛いのよね〜と、やたら女に甘いあたし。
        柳沢と北見はと言えば、その後復縁しますが、ウザいカップルですな〜(自分で言うな。)。
        ま、大人が見たら子供っぽいと思う事でも、十代の頃は真剣にって事で、
        こういう事で友達も巻き込んで家の事を考えつつも朝まで話し合っちゃったりさ、
        それも青春と、くたびれた大人は思います。

        そして誤解によりアツイ乱入をかます服部、普段ならもちっと冷静かとは思いますが、
        時間が時間、状況が状況、更には自分がやらかした事が事、
        ああつまり、奴の所業に対する、これがあたしの意趣返し。常にって感じだが。
        んで、動転してとんでもない事口走って、更に怒らせちゃったりもするんですが、
        内心焦りつつも、和葉に対してはあまりヘコヘコしない、
        そんな目指せ亭主関白で、謝ってんだか何だかな、えれぇふてぶてしいウチの服部。
        でも冷静になったとか、隠してたとか、思ってるのは自分だけ。気づかないのは和葉だけ。
        ちなみに、怒った幼なじみに許して貰う方法として、
        過去もっとも印象深い行動を取ったのは、
        シャワーを浴びる女に、「許さないとこのドアを開ける。」などと言い出す、
        忍者戦士飛影の主人公(古すぎる上に犯罪です。)。

        和葉は恐らく、事件とか工藤とか聞いたら、
        事件に対する服部の姿勢とか、友達思いな所をらしいと考え、
        憎まれ口かましつつも許しそうだと思うのですが、まぁそれで行けなかった事はともかく、
        怒るべき点はやはり、連絡を忘れた事と、あの電話応対だよな。
        でも新一と会ったんならって、蘭の事考えて色々言われそうでもあるわね。
        そこはまぁ、上手く誤魔化せ服部平次。つーか近畿大会の時はどう誤魔化した。
        まぁ、その時の事もあるしって事で、新一の事は隠させなかったんだけど、
        隠すとして、「チチのデカイ外人に会ってた。」などと言い出す、
        和葉の不倫疑惑を煽る、すっとこ平次を妄想してしまい、涙を流しつつ却下。
        しかし、事件に遭遇した平次のケガの心配をする和葉ですが、
        彼の体で今一番痛いのは、あなたに蹴られたスネだと思います。

        そして、人の事をどうこう言う以前に、自分達こそまさに痴話喧嘩なのですが、
        今一つ自覚が無い奴と、保護者的責任と考える奴・・・前途多難。
        でも和葉の機嫌が直ったのは、保護者的にでも平次の心配が嬉しかったからで、
        平次も不機嫌になりかけるものの、和葉の機嫌が直ったので良しと考えたりして、
        ああさっさと今回の仕切直しの約束しちまえよって感じだが、ぼかしつつFIN.

        タイトル、宵待草はそのまま待ちぼうけ食らった和葉で、花の色はその機嫌って事で、
        アナタの心には何が残ったでしょうか・・・(何だそのまとめ。)。


        <補足>
        最初の心配通り、やはり次の平和登場編にて、すべてを覆す様な展開が!!
        待ってたんですって、和葉・・・四時間も・・・。
        おいおい、帰って良いとか連絡しろよ服部平次!! って感じだが、
        やはりあれでしょうか、連絡したけど、
        顔見るまでは安心出来ないから、何だかんだ言いつつ待ってたって感じでしょうか。
        うう、可愛い!!(勝手に妄想して勝手に感動。)
        可愛いが、こっちの創作のつじつまが・・・ちちい。
        でもこれは予想っつー事で自己完結。うん。