宵待草の花の色 1
何度も男らしくない。明日で良い。
もう一人の自分はそう言っているのに、
気がつけば携帯のボタンを叩いている。
そうして、聞こえてくる機械的な声に舌打ちをしかけて、
ため息に変えるのは、これで何度目かわからない。
東京から寝屋川に帰り着いた時は午前を回っていた。
駅から自宅までの道すがら、ここまでの携帯使用数を考えて、
今殺されて携帯調べられでもしたら発信履歴全部あいつやん、カッコ悪。
などと、いささか物騒な事を考える。職業病、というやつだろうか。
その職業的勘を活かし、相手と携帯の状況を推理してみる。
一・寝るから切っている。
二・怒って切っている。
時間的には一番が有力だったが、
探偵の勘と、長年の付き合い故の経験と、
そして、本日の自分の所業は、間違い無く二番を指している。
言ってしまえば、推理以前の問題だ。
弁解はもとより、謝罪を受け入れる気すら、無いと言う事だろう。
何度も男らしくない。明日で良い。
・・・・・・これで最後。
そう自分に言い聞かせ、再び携帯を手にする。
さすがに自宅の自室から電話して、小声で謝る様な真似だけは避けたい。
あくまで帰り道、歩きながら、そう、思い出した様に。
妙な男のプライドと戦いつつ、ボタンを押しかけて、
通り道にあるファミレスの、暗い夜道に灯る明かりに何となく安堵を感じ、
何気なくその店内をのぞき、服部平次は目を見開いた。
今まさに、何度目かの正直を信じ、電話をしかけた相手が、
窓際の席に、こちらに背を向けて腰掛けていたからである。
「か・・・。」
後ろ姿とはいえ、絶対に見間違えるはずが無い。
窓越しのポニーテールに声を上げかけて、平次は和葉の置かれた状況、
正確には、和葉以外の周囲の状況を確認して、愕然とした。
その状況が、先程の推理が両方とも外れている事を示していたから、
と言うより、その答えを知ったらから、と言った方が正しいだろう。
答えは一番でも二番でも無く、三番の、
男と話すから切っている。
であった。