秋雨想起 8
「・・・・・・・・・な・・・ん・・・・・・。」
「・・・って、お父ちゃんに言うてしもうた時の事、思い出してたんよ。
昔の事やけど、随分子供やったなぁって。
そんで・・・って、平次!?」
平次にも、随分と迷惑をかけてしまった事を思い出したばかりなので、
怒るのを止め、きちんと説明しようという気持ちになったのだが、
和葉の説明を聞く以前に、何故か平次は青ざめた顔をして、
もっともこれは、生来の肌の色のせいで随分とわかりにくかったが、
呆然と立ちすくんでいた。
「ど、どないしたん!? どっか気分でも悪いん!?」
そんな平次の様子に、慌てて和葉が詰め寄るが、
そんな和葉を片手で制して、
「昔・・・ああ・・・。」
平次はもう片方の手で頭を押さえつつ、うわごとの様にそんな言葉をつぶやいた。
「平次、憶えとんの?」
また、何かの本を読みあさって、無理な徹夜でもしたのだろうかと、
おかしな態度については深く考えず、
自分の言った言葉に思い当たった様な平次の言葉に水を向ける。
「・・・忘れる訳あらへんやろ。」
「え?」
「遠山和葉チャン親父の事でヤキモチ妬いて服部平次クンに突っかかる事件。」
何事か、ぼそりとつぶやいた平次の言葉に和葉が首を傾げると、
平次はにたりと笑って、やけにはきはきとした口ぶりで、そんな言葉を言ってのけた。
「なっ・・・せ、せやかて・・・。」
平次の言葉に憤りかけるが、存外、間違ってもいない内容に、和葉は二の句を次ぐ事が出来ない。
「随分八つ当たりされたもんなぁ、えろう傷ついたんやで? 俺。」
「う、嘘、あん時、謝ったら、全然気にしとらんって言うたやないの!!」
こんな風に冗談めかして言って来るのが何よりの証拠だ。
自分が悪いとはいえ、本当に、昔も今も、鈍感極まりない。
「あー、そやな、はいはい。」
「もう・・・だいたい平次、何しに来たん?」
どこか不貞腐れた様な口調の平次に、もうこの話は止めにしようと考え、
思えば最初にするべきであった、平次の突然の来訪の意を尋ねる。
「あー、お前の親父帰れんのやろ?」
「うん。」
父と和葉の電話も聞いていた様だが、
理由がそこにかかるとなると、先にあちらで、事情を聞いて来たのだろう。
そう言えば昨日、大滝から、とある事件について、知恵を貸して欲しいと頼まれたと言っていた。
その用事は済んだのだろうかと思いつつ、和葉が素直に頷くと、
「せやったら、その分の晩飯、食ったろかな思て。」
しれっとそんな事を言ってのけた。
「はあっ!? 何勝手な事言うとるんよ!?」
図々しくも恩着せがましい物言いに、和葉が思わず声を張り上げる。
「せやかて、どうせ親父が帰って来る思て、ぎょうさん料理作ったんやろ?
せやけど、また長い事詰めるみたいやし、無駄になってまうやんけ。」
「ご心配なく。これからお父ちゃんに差し入れ持って行くんやから、
平次のお腹には入りません。」
どうにも行動パターンを読まれている様だが、
平次の思う壺にはならないと、すまして今後の予定を述べてみせ、
和葉はそのまま台所へと足を向けた。
「・・・・・・昔っから親父親父親父・・・。」
後方で、平次が何事かつぶやいた様な気がするが、
どうせ文句だろうと、耳を貸さない。
しかし、不機嫌さを丸出しにする、そんな平次を目の端に映し、
・・・あたしの料理、食べたいって思うてくれたんかな・・・。
などと思ってしまって、軽く肩をすくめる。
どうせ、ここで食べて、家でも食べようという、
育ち盛りならではの魂胆に決まっている。
そう思うとまた怒りたくなったが、
所在なくたたずむ平次の姿に嘆息しつつ、
「平次? お父ちゃんの所に差し入れ持って行くの付き合うてくれたら、
平次の分も包むけど・・・。」
譲歩案を出してやると、
「ふん・・・まぁ、食い物貰えるんやったら、連れてったってもええけど・・・。」
と、やはり育ち盛りだと思わせる様な返答を返したが、
やっぱりかと、軽く肩をすくめつつ、二つ分の容器を用意する和葉の傍ら、
「そんなら、帰りは手土産持ってうちに寄るんやな?
そんなら今日、大滝はんに頼まれて解いたったアリバイ崩しの話、聞かせたってもええで?」
何故か、そこはかとなく上機嫌な様子で、そんな事を言い出した。
「・・・・・・。」
料理と共に家に行くとは一言も言っていないのだが、
どうせ今日は一人だし、父と同様に主の帰らぬ服部家でも、
静華が一人で夕げの支度をしている事だろう。
お邪魔して、自分の料理も交えて食事をさせて貰えたら、楽しいし、嬉しい。
何より平次が、やけに意気揚々としているから、
それに水を差すつもりもない和葉は、はずんだ気持ちのまま、
素直に「うん。」と、頷いた。
元気な自分を、差し入れと共に父に届ける事を考えながら。
終わり
母親なー、どうなんだろうなー。
名前なー、なんなんだろうなー。
執筆中、どんなに忘れようとしてもついて回った、和葉の母の生死と、和葉の父の名前。
原作ではっきりしない内は、どうにも卑怯な書き方で逃げるあたし。
あの状況で母親を書かない事は無理がありましたが、
亡くなっていると取るも、長期の旅行と取るも、推理は自由!!(真実は?)
あの出演率で父親の名前を書かない事は無理がありましたが、
あの呼び方でも、そんなに違和感はなかったのではと・・・駄目?(可愛く!)
あと和葉ん家もなー、戸建てかマンションかくらいは知りたい。
窓から萩が見えると書いておりますが、庭とは書いてなかったり、
更には料理の内容を色々書くの好きなのに、おやっさんの好物を勝手に考えるのもなぁと書かなかったり、
二次創作の分際で、こうも原作の設定にこだわるのは、逆に図々しい考えでございましょうか。
それはさておき、今回は遠山親子が主役ティックなお話となっておりますが、
実は、元々書きたかったものは、
服部家の裏庭で泣く和葉と、和葉に「大嫌い」と言われて落ち込む平次だったり。
何か両方、鬼的思想。
いや、和葉が服部家の裏庭の萩の中で泣いてて、平次が、
「ここで泣く癖は昔と変わらんな。」
などと言いながら見つけたりする、そんなときめきなシーンを書いてみたかったのですが、
和葉贔屓なあたしは、今の和葉が隠れて泣く様な事態が想像出来ず(愛しすぎ。)。
色々と考えている内に、平次の言う所の「昔」である、子供時代の話となりました。
「大嫌い」は、好きな子に言われる言葉としては最大級のダメェジとなる言葉なので(ハナホン調べ。)、
服部いじめとしては最高のネタだと思っているのですが(鬼。)、
やっぱ、そこまで言わせるからには、仲直りの際は告白くらいの見返りが必要かなぁと、
「嫌い」に抑える事と、これまた子供という事に逃げてみたり。
でも変わりに遠山父が禁断の言葉を言われてしまう訳ですが、
これはやはり気持ちの裏返しって事で、最終的には告白もされちゃいますし、
それを考えると、やはり平次が貧乏くじ。嗚呼。
ラストでは勘違いのおまけもつきますし・・・あの時の驚いた顔ったら!!(見たんか。)
それにしても今回の服部平次と来たら、笑っちゃうくらいのピエロっぷり!!(ひでぇ。)。
子供時代という事で、話を聞かせようとしている所とか、図々しい勘違いとか、
怒らせた際の消沈ぶりとか、謝られた際の狼狽っぷりとか、
何かもう、これ以上ないってくらいにわかりやすく、楽しく書かせて頂きましたが、
ラストの言動を見るに、何か一人だけ成長してねぇ・・・。
まぁ、今現在は和葉に対して、ああも図々しい勘違いはしないかと思いますが、
和葉だけは特別と、和葉以外にはバレバレな態度で振舞う服部平次を書くのは楽しかったです。
しかし今回の和葉、ほとんど父親の事しか考えてないですね・・・ラストまでも。
子供時代、小学生というだけで、はっきりとした年齢は書いていないのですが、
だいたい、一年生から四年生くらいの感覚で書いております(広いよ。)。
いや、ビジュアル的には一年生くらいのが可愛いかなぁと思いつつ、
ときめき路線を考えるなら、四年生くらいが良いかなぁとか。
それより上と言うには、ちょっと子供っぽすぎますし。
好みにより、伸縮させると良いよ!!(どんな創作だ。)
しかし、子供とはいえ、和葉が我慢出来ずに怒り出すまでの過程が短すぎるので、
ワガママに映ってしまったら悲しいなぁと思うのですが、
原因の大半が、微熱続きだったという事と(何なら赤飯絡みとか。)、
これまた、あの親子が嫌な感じですれ違う様なシーンはあまり書きたくないという、
馬鹿作家の葛藤故の最短距離と言いますか・・・。
熱があるのはあたしの方だよな。
そんなこんなで、別路線からの転向により出来たお話ですが、
少しのすれ違いはあるものの、結局の所、
お互いを大切に思っている遠山親子を書くのは楽しかったです。