そして本日も何事も無く 5
さーて、どうしようかな。
葛城士朗は前を向いたまま、考えを巡らせた。
男子にしては小柄な士郎と、和葉の身長は同じくらいなので、
少しでも横を向くと妙な接触をしかねない。
男子高校生としては喜ぶべき事だが、
葛城士朗としての理念には反する行為である。
やはり服部先輩の肩にもたれかかって下さるのが一番お似合いなんだけどな、
まぁ、僕以外の人間なら色々面白いからそれも良いんだけど。
そんな事を考えて、和葉を平次の方に押し戻す方法を考えたのだが、
いかんせん、相手は武道の達人であると共に、
こと和葉に関しては意地が服を着て歩いている様な人間である。
下手をするとこちらに戻されかねない。
何か上手い方法は・・・。
そんな事を考える彼の眼前に、
まるで助け船の様に、鉄道の高架下が待ちかまえていた。
府内を巡る、様々な鉄道を通す高架の為、
その下はほぼトンネル状態と言っても良い長さで、短からぬ暗闇が続く。
バスがその中を通り抜ける間、その暗闇に乗じて、
士朗が何事か行動を起こそうとした時だった。
あれ?
ふっと、肩にかかっていた柔らかな重みから解放され、
士朗は暗闇で目を見開いた。
しかし、それについて考えを巡らせるよりも早く、
バスは暗闇を抜け、すべてが白日の元にさらされた。
窓際には、先程と変わらず、肘をついたまま外をながめる平次。
そしてその隣りには、やはり先程と変わらず、健やかな寝息を立てて眠る和葉。
しかし、先程と違う事は、その体が、今までと違う方向に傾いているという点で。
「うわぁお。」
思わずささやかな歓声を上げてしまう。
「・・・何やねん。」
と、何事も無かったように、相変わらずの口調で答える相手の、
すこぶる器用な、早業に、対しての。
あまりの面白さに、続けて何事か言ってみようかと口を開きかけ、
葛城士朗は、この少年にしては珍しく口をつぐんだ。
それは決して、怒りを買って再び元の状態に戻される事を危惧しての行為ではなく、
真横の二人の状態に、やはりお似合いだと、
思わず目を細める程に感嘆してしまった為の行為である。
「・・・先輩、あれ、何でやと思います?」
斜め前の席から後方の様子をこっそりと盗み見しつつ、
一年生の一人が隣席の二年生の一人に、これまたこっそりと問いかける。
「ああ・・・俺なりに仮説を立ててみたんやけどな、
一番、俺らも気づかんかった揺れのせい。
二番、たまりかねた葛城が元の持ち主に返した。
三番、はっ・・・」
「やめて下さい、先輩、それは禁忌です。」
指折り仮説を述べていく上級生が中指を折りかけるのを芝居がかった素早い動作で止め、
下級生は静かに首を振った。
禁忌と定めたその仮説が、
一番有力ではあるが、一番恐ろしい答えである事は、
彼にとっても、他の部員達にとっても、口に乗せるまでもない、暗黙の事実である。
「・・・ま、一件落着、っちゅう事か?」
「・・・みたいですね。」
それは、不穏な空気の一掃という事で、自分達にかかった言葉の様にも思えたが、
すぐ上には監視カメラ、という事で、
先程の様に、まぁ、あれも結局はリスクを背負う結末となったが、
易々と他の人間がお宝を拝む事が出来なくなった事は、
仮説三番の実行者にとっての、一件落着と言えるだろう。
「しっかし、俺らって何なんやろうな。」
「ははは。でも葛城の言う通り、アレが無いと寂しい気もしませんか?」
「言える。」
しみじみとそんな事を言う後輩に、苦笑いで返し、
ふと、電源を切り忘れていた自分の携帯が小さな着信音を奏でている事に気づく、
「あ・・・先生や。」
液晶画面が告げる顧問の名に、出なければと思うものの、
バスの中だという事を考え、ちらりと運転席の方に目をやると、
バックミラー越しに目が合った運転手は素知らぬふりで答えてくれた。
会釈を返しつつボタンを押し、極力小声で応対する。
自分の車で戻った顧問はもう学校に着いているらしく、そこからの連絡であった。
「え、自転車の奴らももう着いたんですか?
こっちはバスがなかなか来んかったもんで・・・、
はい、まだバスの中なんですよ、あー、あと20分くらいかかります。」
自転車の人間が先に着いたという事で、心配して連絡をよこした顧問にそう答え、
残りの所要時間を告げる。
「え、別に寄り道なんかしてませんて。
騒ぎも起こしてませんし、それはもう、」
何事かやらかしての遅延ではないかと訝る教師に答えつつ、
再び後方の二人に視線をすべらせ、締め括りの一言。
「至って何事も無く、いつも通りです。」
終わり
さて、まずは再びありがとう、あるっち!!
そんな訳で、またも「石庭酒家」のあるふぁさんにおねだりし、挿し絵を描いて頂きました〜。
いやぁ、どうしてこんなにステキなイラストを頂ける事になったのか、
某日某所、何故か謝るあるっちに対し、
「平和イラスト。」などとつぶやいた事も記憶に新しいですが、
いやぁ、どうしてこんなにステキなイラストを頂ける事になったのか・・・。
そんな訳で、まんまとリクエスト権を得たあたしは、
その後、メールでまだ書いてない創作の内容を五行で説明、
挿し絵希望シーンを一行で説明するという荒技を持って、
かのイラストを獲得したのです。
しかし、そんな恐ろしい業の上に成り立った平和イラストであるにも関わらず、
す、素晴らしい!!
平次がカッチョイー!! 和葉がビジーン!!
おまけに夏服!! 鎖骨だよ、鎖骨!! それもダヴル!!(うるせえ。)
もう、反則だよこんな不意打ちのキス・・・(してねぇし、ねだられての事だし。)。
そんな訳で挿し絵を受け取り、あたしは創作に燃えました。
素晴らしい挿し絵があれば、あたしはいくらでも働けるらしいですあるふぁさん!!
っつーか、ねだる場合、普通創作が先だろう。
でもとにかく燃えて、当初は五行で説明出来る程度の内容だったはずが、
いつの間にやらこの長さ・・・燃えすぎ。
そんな訳で練習試合。
そろそろ私立校の部活のシステムについてきちんと調べ、
各大会や練習試合の時期もおさえとけって感じだが都合良く練習試合。
そして他校と関わる度にとんでもねぇ事になるという、とんでもねぇ平和設定。
もう、近寄る異性、寄せては返す波のごとしって感じで!!
ちなみに平次は、数が多すぎる事もあり、まぁミィハァなもんだろうと、
愛想は良いが、真剣にも受け止めてはおらず、
和葉もまた、数は平次程ではないにしろ、寄ってくる男子のアプロォチを、
何だか愛想の良い人くらいにしか思っていないという鈍感っぷり。
罪、罪です、美しさは罪、微笑みさえ罪。バンコラン。
っつーか両名とも、自分の魅力には無自覚に、
幼なじみに言い寄る人間の方が気になって仕方ないのです。
そんな事を原因に、冷たかったり熱かったりなケンカを繰り広げるので、
いつもの言い合いならまだしも、周囲の人間はたまりまセヴン。
考えた当初、服部先輩はもう少しわかりにくかったはずが、
何だか最近の服部平次は愉快なので(何つー言い訳。)、あんなにわかりやすく・・・。
もう何もかも、知らぬは本人達ばかりって感じで良いや(適当な。)。
一年がハラハラ、二年が面白がり、三年がやれやれと思う、そんな二人でしょうか。
でも結局の所名物なので、平和なくしてはいられない、
まるであたしの様な改方学園剣道部員(一緒にすんな。)。
あ、一年なのに面白がってる人間も一人、
オリキャラ葛城士朗は「新緑シリーズ」(自分でシリーズとか言うな。)からの再登場。
今回も前回同様のやらかしっぷりですが、
和葉にもたれかかられるのは計算外でした。珍しく狼狽している彼です。
これが自分以外の人間だったら、平次を煽る、彼の舌も冴え渡っていた事でしょうが、
今回は元のさやに戻す事に専念し、戻った様子を見て感嘆してしまうという大人しさでした。
さて、前日の様子ですが、あー、原作で出ねぇかなぁ、和葉ん家!!
マンションなのか、一戸建てなのか、喫茶ポアロの上なのか。
まぁ、玄関はあるだろうって事で出しましたが(そりゃな。)、
他はサッパリなので、今回、平次が入れるのここまで(すごい理由。)。
まぁ、一番の原因はおやっさんなのですが・・・。
っつーか、いなかったら何するつもりだったんだよ服部!!
いや、楽しくお話とか・・・ときキャン創作ですから。
遠山父は平次に対する態度はどうなんでしょうね、
今の所、酒が入ってると平和推進派って感じだったので、飲ませておきましたが、
シラフの時は果たして・・・。
対する平次の口調もよくわかりません、今回は色々とやましいので焦らせてみましたが、
事件の時とかは他の人間同様、タメ口聞いたりするのかしら。
取りあえずは誤魔化して・・・しかし最大の誤魔化しは、
これまたいまだ登場しない、遠山母についてでございましょうか、
不在な事が当たり前の様に書きつつ、静華が旅行中という所がミソです。
一緒に行ってるかもしれないという・・・ああ汚い手法。
そして、すげぇ汚い平次の剣道着を修繕する和葉・・・。
平次の剣道着は常に美麗説推進派の皆さんごめんなさい、何か荒行の後って事で・・・。
ついでに剣道着の洗い方はこうじゃねぇって方もごめんなさい、次の試合頑張って下さい。
正直、あたしとしては洗濯機でガラガラ回しちまえよって感じだが、
何かこう、見えない所でかいがいしい和葉を書きたくて・・・。
そんな訳で、そこまで色々してくれた事には気づかないにしろ、
朝一で届けられた、妙に綺麗になってる剣道着を着て、妙に張り切ってしまう平次です。
って、そんな事で良いのか、常に張り切れ剣の道(お前が言うな。)。
そんなこんなで、周囲を巻き込んだケンカや仲直り一歩手前、
更にはこうもバレバレで良いのかという様な暗闇の攻防を経て、
本日も何事も無く・・・と、タイトルに繋がります。あれが普通ですから、ええ。
でも、そんなラストの二年生の台詞に、「平和です。」と付け加えようかと考えて、
そらちょっとベタベタやろ自分ーと、断念。
ちなみにあたし、平和は「へいわ」って読んでるんだけど、
名前で考えたら「へいかず」が正しいのだろうか。世間様はどうなのかしら。
そんなん今更こんな所で言うなって感じかしら。
では、改めましてありがとう、あるっち。
さて、次の君の使命だが・・・(かなり本気。)。