新緑の恋を知る 2
「はん、物好きやな。」
普段なら同級生と組むアップを、何となく二年の列に割り込み、
聞かれてもいないのに、放課後の和葉の予定に話題を流し、
ついでにその相手である、同級生の人となりに触れてみせると、
自分の背中を押している上級生は、事も無げにそう、短く答えた。
「と言うより怖いモノ知らずですよね。」
「ははは、言いよんな。」
その怖いモノは遠山先輩では無く、今硬い笑いを返している服部先輩ですと、
言ってみたいのは山々だったが、士朗はあえて訂正せず、言葉を続けた。
「まぁ、そんな性格で後先考えない奴ですから、手も早いんでしょうねぇ、
関わるチャンスも少ないし、放課後が決め時!! とか言ってましたし。」
龍之介が聞いたら、んな事言ってねーーーっ!!
と叫ぶ様な虚言が、ツルツルと口から生まれ出る。
すべては目先の面白さの為に。
葛城士朗のほとんどの言動の起源はそこにある。
「・・・竹刀取り行くで。相手せぇや。」
一通りのアップを終え、平次がそう言って立ち上がり、
道場の奥にある部室へと足を向ける。
ここで飛び出して行く様なら、かなり面白いのだが、
こういう人だからこその面白さというのもあるのだろうか。
そんな事を考えながら士朗は、部室に向かう平次に先んじた。
「ああ大変です先輩先輩の竹刀がありません。」
「・・・何やねん、その棒読み。」
平次を追い越し、先に部室へと入り、
平次のロッカーをのぞきこみながら、抑揚無くそんな言葉を発する士朗に、
平次が冷ややかなツッコミを入れる。
「大変だ竹刀が無いと稽古が出来ない。そうだ遠山先輩ならわかるかも。」
「お前なぁ・・・。」
先程からの自分のあからさまな態度を読まれている事は百も承知というか、
関西が誇る名探偵相手に、小細工をするつもりは毛頭無い。
しかし、それ故に、相手が余計に気のない素振りをするのならば、
こちらは余計にあからさまにと考え、
士朗は平次のロッカーにきちんと納められている彼の竹刀を確認しつつ、
入り口に立つ平次に、わざとらしい口調でそんな言葉を続けた。
とんだ逆勧進帳である。
「でも遠山先輩は図書室だし呼びに行くしかないなぁ。
でも一年の僕がそんな事するのは差し出がましいし困ったなぁ。」
平次の言葉など意に介さず、
生真面目な表情のまま、士朗は棒読みにそんな台詞を続けた。
「しばくぞ。」
平次が眉間にシワを寄せ、入り口の隅にまとめておいてある木刀を手にする。
「別の相手にして下さーい。」
大阪府内ではもはや敵無しとされる改方学園剣道部でも随一の実力を持ち、
全国でも五指に入ると言われる上級生相手に臆する事無く、
募金を募る様な口調でそんな事を言ってのける。
「・・・・・・戻ったら稽古つけたるから覚悟しとけや。」
しばし考え、肩ごと息を吐き出すと、
物騒ともとれる台詞を口にし、平次がきびすを返す。
その言葉に、「乗ったるわ。」という意味合いを感じ取り、
「先輩の相手が出来るなんて光栄だなぁ。」
爽やかにそう言ってにっこり笑うと、士朗は部室を後にする平次を見送った。
無論、同級生の無事と、事の顛末を確かめに、
しばらく後、平次と同じ場所に向かう事に、心は決まっているのだが。