新緑の恋を知る 1
「・・・愛想振りまいとらんと、さっさと俺の竹刀探せや。」
廊下の向こうの後輩に笑顔を投げかける和葉に、
平次は前を向いたまま、低い声でそうつぶやいた。
「何やの、偉そうに、そもそもあんたがちゃんと片づけとかんのが悪いんやろ!!」
後輩への笑顔はどこへやら、
途端に表情を怒りへと変えた和葉に一気にそうまくしたてられ、
「うっさいわボケ。」
ちらりと和葉の方を向き、不機嫌にそう切り捨てると、
平次は再び視線を前へと戻した。
「あんたなぁ・・・。」
平次の勝手な態度に、それ以上、文句を言う気にもなれず、
和葉は脱力した様に肩を落とした。
けれど、
無くなった竹刀を、自分なら見つけられると考えてくれたのだろうかと、
そんな事だけで、嬉しくなっている自分がいる。
平次が何番目に自分を思い出したのか、
竹刀がどこにあるのか、まったく見当はつかないものの、
そんな感情に胸の内を暖かくしながら、
和葉は平次にわからない角度で、無意識にも、最上級の笑顔を見せていた。
一時間だ。いや、一時間にも満たない。
一時間目の社会科の授業、資料の不備に気がついた教師の松島が、
あの言動であるにも関わらず、同性の方が気楽だと考えたのか、
女子の日直である和葉を伴って社会科準備室に向かい、
その後、図書室でちょっとした事故が起きたからと一人で戻り、
和葉が二時間目が始まる直前に戻るまで、一時間にも満たない。
その後、その事故の顛末を和葉から聞き、
その後輩に付き合う事になったからと、
剣道部に顔を出せない意向を聞いた時も、さして問題にはしていなかった。
アップで組んだ後輩の、
「ああ、最近転校して来たクラスメートなんですけどね、その相手。
いや〜、心配だなぁ、何か二股かけてたのもどうでも良くなっちゃうくらい、
遠山先輩に惚れ込んじゃったみたいですから。」
という言葉を聞くまでは。