傍らの資格 3
恐らく平次は、謝罪の意味には気づかない。
だからこそ、あえて口にした。
あの時、平次の態度をおかしいと思いつつも、
一瞬、本気で言っているのかと思ってしまった事への謝罪を。
悪い事は、
想い人を疑って多しまった事。
幼なじみのすべてをわかっているなどと、
尊大な事を言い出すつもりは無いが、
誰よりも側にいながら、たとえ一瞬でもその相手を疑ってしまった事実は胸に痛い。
「・・・もうちょっと、わかってる思ったんやけどなぁ・・・。」
洗面台に向かい、独りごちる。
鏡に映った自分が、失望した表情でこちらを見つめ返している。
その視線はそのまま、ストライプのシャツへと映り、
怒った様な、泣きそうな表情へと変化を遂げた。
「・・・何や、着替えたんか。」
化粧室から座席に戻り、
先程の謝罪について平次に問いただされたらと和葉は考えを巡らせたが、
やはり気にとめていないのか、それについては何事も無かった様に平次が発した第一声は、
目に見えた変化に対する、そんな一言だった。
「着替えたんやのうて、はおっただけ。空調ききすぎて寒いんやもん。」
屁理屈と言い訳と、そして嘘を口にして、
和葉は少し軽くなった紙袋を棚に上げ、座席に腰掛けた。
ストライプのシャツをすっぽりと隠す、秋物のカーディガンの裾が視界に入る。
渋谷で購入したそれは、
ベージュに赤い小花の刺繍が施されたレトロなデザインで、
薄手に作られてはいたが、現在の気候で着るにはいささが気が早い。
けれど和葉は、この車内に限らず、自宅までその服装を通すつもりでその服を着込んだ。
罰だと思うから。
今の自分には、平次とおそろいの服を着て、浮かれている資格は無い様に思える。
もっとも、浮かれる所か、羞恥心で一杯になる行為ではあったのだが、
それでもやはり自分への罰だと考えて、和葉は上着をはおった。
蘭ちゃんに、悪い事してしもた・・・。
平次とおそろいになる様にとわざわざ自分のワードローブの中から、
ストライプの洋服を探し出してくれた蘭に胸中で詫びる。
次に会ったらまた、謝らなければならない事が出来てしまった。
「・・・別に、ええやんけ。」
「え?」
ふいに真横からよく聞き取れぬつぶやきが漏れ、平次の方に目を向けると、
平次は先程取った帽子を再びかぶり直し、鼻まで隠す勢いでぐいっとツバを下げた所だった。
そのまま腕を組み、心持ち体を下に下げ、眠りに入る姿勢を見せる。
自分から何事かつぶやいたにも関わらず、接触を遮断する様な、
どこか怒った様な突飛な平次のその態度に和葉は戸惑った。
・・・なんやの・・・?
帽子の下からのぞく、引き結んだ平次の唇をながめながら、眉根を寄せて考える。
不可解としか言い様のない感情が脳裏に渦巻いたが、
こうして、服部平次に関する事で、わからない事などたくさんあるという事実は、
今の和葉に少しばかりの元気を与えた。
何もかもわかっている関係なんてきっとありはしないはず。
その上で、一つ一つの発見や理解を積み重ねて行けば良い、
時につまづく事はあっても。
疑いはしたけれど、それが杞憂にすぎなかった事実を喜ぶべきではないのだろうか。
そんな事を考えて、和葉は平次と同じ様に体を下げると、
自分もまた、眠りにつく姿勢を取った。
いつか、今よりもう少しの自信が持てたら・・・。
そこまで考えて、赤面を通り越して顔面が蒼白になる。
無理だ。
どんなに自信が持てても、たとえ平次との関係が変わったとしても、
絶対無理だ。
答えと言うべき、カーディガンごしのストライプのシャツをつかみつつ、
同じ服装で街を行く、自分と平次を思い描いてしまった想像を、頭の中から必死で消去する。
他の女の子にヤキモチを妬いてはみても、
「兄弟」と評した幼なじみに怒ってはみても、
先程の様に、似た様な服装というだけで、あの騒ぎだったのだ。
同じ服装だなんて、
一体、どう転んだらそんなシチュエーションになるのかすら、想像するだに怖い。
このまま寝たら悪い夢を見る。
そんな事まで考えて、和葉は慌てて身を起こした。
この現代において、それが似合うというのも希有ではあるのかもしれないが、
ここまで顔面が蒼白になる関係というのももの悲しい。
それはきっと、自分にも何らかの問題はあるのだろうが、
取りあえずは、そんな関係をして、
「兄弟」などという評価を平気で下す相手を恨む事に心を決め、
和葉は、もう眠りについたのか、規則正しく肩を動かす隣席の幼なじみを軽く睨んだ。
それでも、
同じ服装でいる事を放棄しつつも、
この先も、それは無理だと思いつつも、
こうして傍らに身を置く事が出来るのは、何よりの幸福なのだろう。
きっと。
そんな考えに胸中を暖かくすると、
和葉は平次に送っていた表情を、自分でもそうとは気づかぬまま、
最大級とも言うべき至福の表情へと変化させたのだった。
終わり
起きろ平次!! 最大級の和葉の表情がそこに!! つーか真横に!!
そもそも本当に寝てんのか!? ええおい!!
でも和葉は「軽く睨む」とかも可愛いと思うんですよ、
こう・・・一瞬キュッとね(キュッて何だ。)。
って、しょっぱなからかっとばせーハ・ナ・ヤですいません。
そんな訳で21・22巻のその後妄想でございます。
しかしこれを書く際に22巻を引っ張り出したら、
表紙のコナンまでもが縦じまのシャツだったのが気になって仕方ありません嗚呼。
しかしながら、実はこの創作で書きたかったのは、
平和よりも、和葉と蘭の関係だったり・・・。
二人が名前で呼び合ったりとか、きちんと仲良くなったのはこの辺かなぁって事で。
ヤキモチから怒りつつも、自己嫌悪と背中合わせな和葉とか、
そんな和葉の気持ちを理解しつつ、優しく接する蘭とか、そういうのが書きたいなぁと。
何だかあたしは女の子が仲良しでいる図がどうにもこうにも好きらしいです。
それはもう公園で子供達をながめる老人の域で。
しかし蘭の着替えた服、何色なんでしょ。
いや、原作ですげぇトーン張ってあるから、
どうにもこうにも判別出来なくて、どうかと思いつつサーフ・グリーンと・・・。
んで、犯人を罠にかける為の平次の態度に疑問を感じる和葉ですが、
原作の「平次・・・。」っつー所がマジ好きで!!
犯人相手だからと思いつつも、どこか釈然としない、
そう思わせる程の、二人の関係が良いですね。
んで、これは何か意味があるのかとか、色々と自問自答しつつも、
一瞬・・・って感じで、こんな展開にしてみました。
客観的にはどう考えても一番の理解者だと思うのですが、
何でもわかっているとは思っていないにしろ、
一瞬でも疑ってしまった事を責める、自分に厳しいウチの和葉。
んで、対する平次ですが、和葉の謝罪に対して、
和葉はわかっていないと考えていますが、
そうは言っていない・・・というか、触れていない所がミソです。
でもここは、どう取るもアナタ次第・・・みてぇな汚ぇ手法。
そして、ストライプのシャツを隠す和葉ですが、
これはまぁ、自分への戒めもありますが、
やっぱりあのまま大阪に帰るのが恥ずかしいっつー感情もあったり。
んで、平次の態度は、和葉がただ単に、
似た服を着ているのが嫌で着替えたと思っている所から来ているのですが、
この辺はどうなんでしょうね〜。
「兄弟」の台詞、あのままじゃ和葉が着替えちゃうから、
それを止める為・・・と深読みしたい所ですが、
ペアルック(文中で意図的に避けて来た言葉。)推進派な平次もなんだかなって事で、
まぁ純粋に面白いから良いと思っていたのに、和葉は・・・って感じでふてくされてると。
そんな訳でペアルック(文中で意図的に避けて来た言葉。)、
和葉はまぁ、憧れはあると思うんですよ、
服とかじゃなくて、ハンケチとか、ちょっとした物とかにね、お守りもあるし。
でもやっぱりお揃いの服装は・・・って事で(彼女の中ではすげぇ映像が渦巻いてます。)。
いや、あたしも仮にこの二人がくっついたとしても、
「じゃあ明日はペアルック(文中で意図的に避けて来た言葉。)で!!」
などと言うのは想像出来なくて・・・。
ああ、そんな二人を推進派の方ごめんなさい、所詮ハナホンって事で許して下さい。
ま、服装なんてどうでも、隣りにいられれば・・・
っつー事で・・・まとまった?(ダメっぽい。)
<補足>
そして今回、途中に入れさせて頂いた、和葉と蘭の素敵挿し絵!!
こちらはウチとリンクして下さっている、
「すぷりんぐGATE」のHALさん(閉鎖されました。)が、
FQジャンルの方であるにも関わらず、コナンイラストを描いて下さったのを良い事に、
「使わせてー!!」と、ねだりまくり、既に完成していたこちらの創作に入れさせて頂いた次第です。
そんな訳で二人は冬服ですが、和葉の、今後謝る機会は幾度となく・・・の言葉通り、
その後の二人のご様子って事で・・・ああ可愛い!!
HALさんの感性豊かな色使いが大好きなあたし。
無論、HALさん自身も・・・ドゥフフー。
そんな訳で、イラストを使わせて頂いて、大変光栄でした〜。
HALさんありがとーう。