真夜中の魚 3
ばしゃんっ!!
意を決した様に、和葉が勢い良く水から上がる。
「・・・あたし、お腹空いてしもたわ。何か食べに行かへん?」
「はぁっ? 何考えとんねんお前!! 今何時や思うて・・・。」
「駅前のファミレスならまだやっとるやろ?
今、デザートフェアやし、決まり! な?」
突如テンションを上げ、そんな事を言い出した和葉に、
平次は翻弄され、しばし、目を瞬いていたが、
ややあって、苦笑いを浮かべると、
「・・・ったく。ええけど、家、大丈夫なんか、お前?」
と、和葉の意見に賛同する形をみせた。
「うん、今日誰もおらんし。」
「って、お前、そんな時表出て、何かあったらどうすんねん。」
「でも、平次来たし。」
まるで保護者の様な意見を発する平次に、
和葉はそんな事を言ってにっこりと笑ってみせる。
「結果論やろそれ。訳わからんわ。」
「ま、ええやん。着替えて来るから待っててな。」
「おお。・・・なぁ、お前ソレ、原田の兄ちゃんにも見せたんか?」
軽やかにそう告げて、更衣室へと向かおうとする和葉に、平次は頷いてみせたが、
ふと、和葉の水着姿を示唆し、そんな事を尋ねて来た。
「み、見せてへんけど・・・何で?」
勢いで水から上がり、水着姿を羞恥していた事など忘れていた和葉だったが、
平次の言葉にその事を思い出し、一気に全身が熱くなる。
かと言って、急に隠すのもおかしなものだし、
前後どちらを向けば良いのかすらわからなくなったまま、
しどろもどろで和葉は疑問を口にした。
「いや・・・見てたら気の毒や思うてなぁ。」
「なっ!! 大きなお世話や!!」
大真面目な顔をして、失礼な言葉を吐く平次に、
和葉はプール中に響く声で怒鳴り返したが、
いつも以上に短い反論だったのは、一刻も早く着替えようと考えたからで、
平次を睨み付けるとそのまま身を翻し、更衣室へと駆け出した。
「おい、十分で着替えたら奢ったるで。」
「えー、無理やそんなん、髪も乾かさなアカンのに・・・二十分!!」
「アホ、そしたらお前の奢りじゃ。」
「ドケチーーー!!」
いつもの調子で自分との掛け合いを繰り広げながら、
更衣室へと走っていく幼なじみの背中を眺めつつ、
平次は重かった心が不思議な程軽くなっている事を感じていた。
謎を解明し、犯人を告発出来ても、気の重くなるような事件の全貌。
けれど自分で決めて首を突っ込んだ事柄に対して、泣き言だけは言いたくない。
この道を選ぶ限り、それは一生かけて向き合わなければならない事だから。
それでも、隣りに求めた人間が、
瞬時に自分の心に気づき、
その上で、いつも通り以上にいつも通りに接してくれるのが心地良かった。
知っていてくれるから、無理をしなくて良いし、
それでも普段通りでいてくれるから、ありのままでいる事が出来る。
言葉は無くとも、自分の自尊心を理解した上で、
そうしてくれる和葉の心づかいが、平次にはありがたかった。
・・・あいつも何かあったみたいやのにな。
真夜中の遊泳を、単なる趣味と受け取れる程、
和葉との付き合いは浅くない。
気づいても、理由がわからず、
その上、逆に元気づけられている自分が不甲斐なかった。
そもそも和葉が拠り所にしたのが政悟の働くスイミングスクールで、
自分の携帯は依然として彼女からの信号を受け止め無かった事が腹立たしい。
帰り道で会った政悟も、和葉のかられた衝動の理由は知らなかった事が、
救いと言えば救いなのだが。
・・・ついでに水着姿も見とらんようやし。
ぽつりとそんな事を考えて、息を吐き出す。
理由を語らないまでも、
気がかりでやってきた自分を拒絶せず、
目指して泳ぎ、真っ直ぐ見つめて、言葉をかけ、笑ってくれる、
それだけでも良しとすべきなのだろうか。
あとは二人で、何でも無い時間を過ごせば。
そうすればいずれ、夜は明ける。
そんな事を考え、平次は今は主を持たぬ、静かな水面を見つめたまま、
じきに現れる幼なじみを待った。
自分の思いは水へとひそめ、ただ相手を癒す、
心深き、真夜中の魚を。
終わり
真夜中に一人泳ぐ女子高生・・・不可解っすな!!
そして白い水着・・・フェチっすな!!
いや、エヴァで綾波が着ていたのがなんか良くてさ(って、こんちこれまたマニアック。)、
和葉には鮮やかな色の方が似合うかなぁとも思ったんだけど、
なんとなく色彩を抑えた世界を書いてみたくて・・・
って、いきなり水着の言い訳ですか。すげぇやましい人みたいだな!!
書きたかったのは、静かに泳ぐ和葉と、それを見守る平次。
いや、何となくそんな絵が思い浮かんでね、
でも実際の二人でそりゃねぇなぁと思い、勝手に悩みを持たせてしまいました。
和葉の悩みは、結構書くのが難しくて苦労しました。
事件ともなれば、危ない目に遭うかもしれないし、
変な女にたぶらかされるかもしれないし、何より隣りにいないしで、
不安や心配や淋しさがある訳なのですが、
かと言って、事件に向かわない平次は絶対違うと考えるウチの和葉なので、
そういう事で悩んでしまう自分に対しての葛藤がね。
平次の悩みもなぁ、快活にしてても、探偵業は色々あると思うしね。
んで、弱みは見せないタイプだと思うので、あの一言もどうかと思うが、
まぁそこはそれ、ときめきキャンディラヴ作家に出番を!!(ずっと書いてたろ。)。
和葉は普通に慰めるよりも、一見わかりづらい、
ともすれば誤解される様な元気づけ方をするんじゃないかなぁと考え、あんな感じにしてみました。
まぁ平次にはバレバレで、そこがまぁ二人の間の深いものを感じさせられればって感じだけど、
今はまだ、友情と言っても語弊の無い、二人の間柄でございましょうか・・・ピュア。
オリキャラ原田政悟、特に描写はしてないが、二十代後半の元気な兄ちゃん。
真夜中の勤め先のプールに女子高生を一人残して帰るグローバル・ガイ。駄目だろ普通。
彼に対し、チラリと嫉妬を見せる平次ですが、彼が知ったら、
女子高生に興味なんぞ無いわーと、一喝される事でしょう。
それ位、かけ離れた位置で進めていくつもりだったのに、所詮ハナホン・・・。
でもな服部、この程度で嫉妬してたら、これから先あたしの創作では・・・。
タイトル、真夜中の人魚と悩んだんだけど、
原作で人魚の話があったのと、そんな深夜番組があったなぁって事で、
魚にしてみましたが、イメェジとしてはやはり人魚でございましょうか。
帽子はかぶらず、髪はおろして泳いで頂きたい、
そんな願望がありますが、プールでそれはイカンかなぁと思い、描写せず。
でもここで書いたなら・・・って感じだよな。
水着和葉を見た平次の反応を、書こうか書くまいか悩んで止めた。
照れが入って止める所が、余計にやましいな!!
つーか水着に始まり、水着に終わる言い訳ってどうよ。
<補足>
夢なら覚めないでーーーっっ!!
雄叫んでみました。
理由はもう、素敵挿し絵と言えば充分ではないでしようか。素敵・・・!!
こちらは、ウチとリンクして下さっている、
「日日是好日」の飆榎牒さん(閉鎖されました。)が描いて下さった物で、
寄贈理由は無論、あたしの人徳!! ・・・と、言いたい所ですが、
某月某日、全国に十人はいると言われている(言っている。)、
ハナホン専属挿し絵描きの一人、東北の情婦に対し、
「やいこら東北のお前、挿し絵寄越しやがれ。」といつもの様に更新履歴で叫んでいた所、
同じ東北にお住まいの榎牒さんはご自分の事かと思われたとの事で、
急遽、こちらの挿し絵を・・・・・・。
うわーーーっ!! 恐喝!? 花屋堂、恐喝!?
うう、リンクしたてのHPが地名上げて騒いでりゃ、気ぃ使いますわな。
ごめんなさい榎牒さん。
・・・・・・でも素敵な挿し絵頂いちゃったので結果オウラーイ!!(反省しろ。)
ああもう、白い水着の和葉がウツクシーイ!!
おろした濡れ髪の色っぽいこと、色っぽいこと!!
静かにたたずむ平次も男前で・・・ああ、あまりにも理想通りで涙出て来た。
創作はもう、挿し絵を入れさせて頂く二年以上前に書いた物なのですが、
時を経て、こんなに素敵な形を持って、人様の手から生まれ出るというのは、感慨深いものですね。
榎牒さん、本当にありがとうございました!!