王子様はいつも大変 2


        俺が・・・あそこに・・・座るの・・・か?
        ミニスカートからすらりと伸びた健康的な足を前に、コナンのこめかみから汗が流れる。
        「いっ、いいよ僕・・・。」
        西の名探偵や色黒男や服部平次の存在を考え、
        後ずさりしようとするが、その肩を和葉ががっちりとつかみ、
        「何遠慮しとんの? ほらっ。」
        言いながら、問答無用の力強さでコナンの体を持ち上げ、
        ソファに座る自分の足の上へと固定する。
        にっ、逃げられねえ・・・・。
        全力で抵抗すれば和葉のホールドから逃れることは可能だが、
        それでは和葉を傷つけかねない。
        それは突き詰めれば蘭の怒りや悲しみに繋がり、自分にとってかなりのダメージとなる。
        蘭の前には平次の顔も綺麗に消え去り、コナンは大人しく現状を受け入れた。

        「森にある、小さなお家にたどり着いた白雪姫は・・・。」
        楽しそうに自分に物語を読み聞かせる和葉の様子は、
        面倒見の良さを如実に物語っている。
        きっと、知り合いの子供の面倒を、この調子で見ているのだろう。
        服部もか?
        苦笑いしながらそんな事を考える。
        蘭に同じ事をされるよりは数倍冷静だった。
        「優しく、美しい白雪姫の事が、小人達は大好きになり・・・。」
        そんなくだりを語っていた和葉が、
        ふいに、コナンの頭の上にぽすんと自分の顎を乗せた。
        「・・・和葉姉ちゃん?」
        軽い感触を感じながら問いかける。
        「このお姫様、蘭ちゃんみたいやね。」
        「・・・そうかな。」
        ぼんやりと答える。
        自分に取っての蘭の優しさや美しさは、御伽噺の様な遠い場所にはない。
        もっと現実的な、近くで咲く花の様なものだが、
        姫君でも花でも、そして自分の姿が別のものであっても、
        幼なじみを何かに例える事に素直に頷く事は気恥ずかしかった。

        「王子様、はよ迎えに来てくれたらええんやけど・・・。」
        「・・・・・・。」
        何とも言えずに押し黙る自分の頭上の重みがふいに増す。
        「・・・和葉姉ちゃん?」
        それが、何かを知った上での自分への遠回しな圧力なのかと考え、
        コナンは様子を見る様に問い掛けたが、
        声の主は抱かかえた自分に体を預け、眠りの国へと旅立っているだけだった。
        「・・・・・・。」
        服部の苦悩が伺える、とため息を一つ。
        自分も人の事は言えないが・・・。
        そのまま、何とか和葉の腕の中から抜け出そうとするのだが、
        眠っている割に、和葉の腕は本を持ったまま、しっかりと自分の体を固定している。
        「くっ・・・。」
        「ただいま〜!!」
        苦心する自分の眼前で事務所のドアが開き、蘭が現れる。
        「あれっ、コナン君、和葉ちゃんに本読んで貰ってたの? 良かったわね。
        ふふ、和葉ちゃんそのまま寝ちゃったんだ。
        子供の体温って暖かいもんね。」
        蘭が笑顔で笑いかけるが、
        他の女との抱擁現場・・・と言っては語弊があるが、を見られ、
        憎からずの相手に頂く言葉として、のん気過ぎるこの言葉は下位に入るのではないだろうか。
        加えて、
        「さっき服部君と会ったから、一緒に買い物して荷物持って貰っちゃったんだ。
        今夜はご馳走作るから、期待しててね!!」
        後ろを振り返りながらそう言うと、
        蘭は笑顔で居住区へと続く階段を駆け上がって行ってしまった。

        あれ・・・何か心がもやもやする・・・なんでだろ・・・。

        と、首を傾げながらではあったのだが。


        一緒に・・・買い物・・・。
        コナンの頭を二つの単語がぐるぐると回る。
        荷物を持つという、今の自分には出来ない行為も彼のプライドをいたく刺激した。
        そんなコナンの衝撃が予想出来たのか、
        出入り口で蘭に荷物を渡したらしき平次が、
        「その・・・訪ねた刑事が留守にしとって、
        こっち来たらたまたまスーパーの前で姉ちゃんに会ってな、
        みっ、見て見ぬ振りもおかしいやろ?」
        そろそろと、様子を見つつ、卑屈な笑顔で登場する。
        部屋の中の様子を見るまでは。

        「くどーーーお!! 何しとんねん!!」

        「・・・見たまんまじゃねえの。」
        自分の真の名を呼ぶ考えなし男に対し、普段ならすぐさま怒声を返す所だが、
        コナンはどうとでもなれと言う様に、考えなし男の幼なじみの膝の上で踏ん反り返った。
        「なっ、おまっ、動くな!! いや動け!! 周りに触らんとすぐさまどけ!!
        だいたい何がどうなってそないな事になっとんねん!!」
        「知らねえ。」
        平次が熱くなればなる程、コナンは冷めて行ったが、
        心の中は仲良く買い物する蘭と平次の様子を想像し、煮えくり返っていた。
        「とにかく離れろ!! 離れろや!!」
        平次もまた、怒りによって気持ちを悟られるなどという懸念もゼロに、
        コナンの襟首に掴みかかる。
        「お前もいつまで寝とんねんボケェッ!!」
        同時に和葉を怒鳴りつけるが、
        かの姫君は王子の怒声には気づかず、笑顔を浮かべたまま眠り続けるのだった。

        終わり


        白雪姫と眠り姫。
        王子様はいつも大変・・・タイトルこっ恥ずかしいなあ。