王王子様はいつも大変 1


        「歩きながら本読んどったら危ないよ。」
        学校帰り、新発売の推理小説を読みながら高揚した気持ちで歩いていると、
        ふいに頭上から声が降ると共に本を取り上げられ、コナンは驚いて顔を上げた。
        「和葉姉ちゃん・・・。」
        「コナン君こんにちは〜。今日あたしら来るって聞いとった?」
        「こんにちは。知ってるよ、平次兄ちゃんがこっちに用があるんでしょ?」
        二人が来る事は平次から聞いていたので頷いたが、
        和葉の隣りにその色黒男がいない事に気づき、目で問い掛ける。
        「平次な、こっちに転勤した刑事さんに話があるんやって。
        何や込み入った話みたいやし、
        あたしは蘭ちゃんにはよ会いたいから、駅で別れて来てしもた。」
        「ふうん・・・。」
        西の名探偵の幼なじみは自分の幼なじみがいたくお気に入りだ。
        その気持ちはわかるが、
        何だかんだ言いつつ、彼女を側に置いておきたいあの男の気持ちはいかがなものかと、
        コナンは一瞬考えたが、すぐにどうでも良い事だと考えを切り捨てる。

        「二人が来るから蘭姉ちゃんもすぐ帰って来ると思うよ。」
        「良かった。そんならコナン君、一緒に帰ろ。
        ・・・っと、その前に・・・。」
        言いながら、さっきコナンから取り上げた本をしげしげと眺め、和葉が眉をしかめる。
        「コナン君、小学生がこんな本読んどったら、平次みたいな推理ドアホになってまうよ。」
        「あはは・・・。」
        もう遅え気がすっけど・・・。
        コナンが汗を流しつつ、適当な笑いを浮かべると、
        和葉が何か思いついた表情で「ちょっと待ってて。」と言い、
        近くの本屋に向かって走り出した。

        「お待たせ〜。さあ帰ろ!!」
        「何買って来たの?」
        「ええもん!!」
        手に書店の包みを持ち、戻って来た和葉にコナンは問い掛けたが、
        和葉はにっこりと笑ってそう言うと、毛利探偵事務所へと歩き出した。
        まあ、何となく想像つくけど・・・。


        「じゃーん!!」
        小五郎は不在らしく、何とかお茶の準備をしようとするコナンを制し、
        和葉が日本茶を淹れ、応接セットに落ち着いた所で先程買い物した本をかざす。

        『せかいのめいさくどうわ』

        やっぱり・・・。

        「やっぱり子供は童話やで?」
        「うっ、うん・・・。」
        オール平仮名のタイトル、可愛らしい人形と動物が描かれた表紙に、
        コナンは目頭を押さえたくなったが、何とか頑張って笑顔を浮かべてみせる。
        「そんなら読んであげるから、はい。」
        「えっ・・・。」
        てっきり本を貰って終わりだと思っていたコナンは、
        本を持ったまま、その膝をぽんっと叩く和葉を前にかたまった。