思い出発表会5
『・・・今だから言えるけど、あれが僕の初恋だったと思います。
遠山さんを好きになったのは、ほうれん草の胡麻和えの時だけど(憶えてるかな。)、
遠山さんはずっと服部君と仲良しで、あの日も服部君と一緒で、
僕は結構早くに失恋と言うものを味わいました。』
「・・・・・・。」
休日の午後、心地よい風が窓から部屋に流れる中、
小包に同封された、小学校の同級生、白石優からの手紙を読み、
和葉は一人、顔を赤くした。
小包に入っていたのは綺麗なフリージアの鉢植えで、
出した途端、部屋の中に良い香りが行き渡る。
同封の写真には、山や森に囲まれた緑の綺麗な場所で、
花を持ちながら笑っている優と、優しそうな女の子が写っており、
色々と近況を綴った手紙の文末は『彼女と育てた花です。』と結んであった。
「ちゃーっかり彼女持ちやないの。
初恋の女は十七年間彼氏無しやっちゅーの。」
幸せそうな二人の写真を軽く睨んでそう呟き、次の瞬間には笑みを漏らす。
最初に送ってくれたのは家族で幸せそうに笑っている写真で、
優の母はあの日優に渡した紙芝居を持って優しい微笑みを浮かべていた。
優が転校してから数年、彼の時は確実に動いている。
一緒に宿題をしたのが昨日の事の様なのに、何だか不思議な気持ちだ。
あたしは何にも変わってへんのになあ・・・。
「おい、和葉、おかんの煮物持って来たで。」
・・・この幼なじみも同様に。
「ノックしてって、何回言うたらええの?」
ずかずかと部屋に入って来る平次を冷ややかな声と鋭い視線で迎えると、
「別にええやんけ。」
と、悪びれもせずに返された。
絶対に女の子扱いされとらん・・・。
唇を尖らせながら優の手紙と写真を封筒に戻す。
「・・・何やねん、それ。」
さすが探偵と言うべきか、平次は和葉の部屋に今までなかった鉢植えを顎で指し、
同時に和葉の手元の封筒に鋭い視線を走らせた。
「え、ああ、白石君からの贈り物。
平次憶えとる?小学校の時の同級生で、途中で転校して行った、
優しくてしっかりした子。
今は和歌山の自然の綺麗な所に住んどってな、たまに、花とか種とか贈ってくれるんよ。」
「・・・・・・。」
眉根を寄せて考え込む様子を見て、憶えてないかと小さく笑う。
平次と優は一緒に遊ぶグループではなかったし、
優の家まで行った時の事も、自分はすごく感謝してるし、
この幼なじみは本当に頼りがいがあるなと昔から思っているのだが、
めまぐるしい日常を過ごす平次に取っては、たいして思い出深い事ではないだろう。
・・・忘れるか。
苦虫を噛み潰した様な顔でフリージアの鉢植えを睨みつけながら考える。
優しくてしっかりしたって何やねん!!
そら確かに優しそうな奴ではあったけど、
俺のがしっかりしとるし、推理力あるし、剣道かて・・・。
小学生時代、共同作業の宿題を和葉と優がやる事になったのも面白くなかったが、
和葉が優の家に行ったと和葉の母親に聞かされた時の衝撃は忘れられず、
男の家にほいほい行くなと、今でも真剣に怒っている。
我慢出来ずに嫌味を言い、
仲間に「嫁さん、取られてしもたな。」などとからかわれて殴り合いの喧嘩をし、
あの日、優の元まで和葉を送りつつも、内心は心配でたまらなかった。
それもこれれも、幼少期の遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い思い出と思えばこそ、溜飲を下げて来たのに、
まだ連絡を取り合っていたとは・・・。
子供の頃は心の狭さは充分承知の上で、遠くへ転校したと安心していたが、
今思えば和歌山は結構近い。
和歌山のどの辺や?週末毎に会ってるんとちゃうやろなあ?
和葉に聞けるはずはもちろんない。
「せや、おばちゃんの煮物、冷蔵庫に・・・。」
和葉が話しかけるが、何故か平次は携帯電話の乗り換え案内を真剣に繰っていた。
また事件でどこかに出掛けるんかなと考える。
今度、優の家まで連れて行って欲しいと言ってみようか。
きっと、平次だって優に会えば彼の事を思い出し、楽しい思い出話に花が咲くはずだ。
花が咲く、か・・・。
フリージアの花を見つめながら、
和葉はその花が浄化してくれる空気を思い、息を吸い込んだ。
終わり
教育テレビみたいな雰囲気を書きたくて・・・。
でも何年生という設定はしていません。