門外不出の家宝なり 3
「ななっ・・・何やて!!」
「せやから・・・昨日の今日じゃ、まだ風邪治っとらんと思うし、
太川君、おばちゃんやと気ぃ使うやろから、あたしが看病に行こ思て。」
「太川君、大丈夫やった? もぉ、めっちゃ心配したんやで?」
上目使いで航吉の心配をする和葉。
「おかゆ作ったんやけど食べられる? そんなら・・・。」
ふぅふぅとあーんの幸せ二段突きで航吉に手料理を食べさせる和葉。
「熱下がった? ちょお、おでこ貸して・・・。」
航吉の額に自分の額を当て、検温する和葉。
「・・・だっ、なっ、何しとんねんボケェ!!!!!!」
和葉の言葉から、一気に「太川の看病をする和葉・初級編」の白昼夢を見てしまい、
平次は床を蹴って立ち上がり、激昂した。
この上は病床の航吉の息の根をと、父親が居合い用に所持する井上真改の名刀に意識を走らせたが、
「へっ、平次・・・・・・?」
呆然と、自分を見上げる和葉の瞳に、半分ばかりの正気を取り戻す。
「なっ、何でお前が行かなあかんねん!!」
「何でって、太川君とは結構仲良かったし・・・。」
理解出来ない突然の平次の勢いに翻弄され、和葉が返した返答は、
不幸にも「あくまで平次を通して」という意味合いの言葉が欠けていた。
なっ、仲が良かったて、俺の知らん間に、いつの間に・・・!!
そういや太川の奴、中一の五月二十日に、
「ええなぁ、遠山みたいなかわええ幼なじみがおって。」て俺に言うて来たし、
中二の二月十四日には「遠山〜、義理でもええからチョコくれ〜。」って和葉に言うとったし、
十月十八日には・・・・っ!!
西の名探偵の頭脳が、間違った方向にその明晰さを示す。
東の名探偵の様にすべての事情を瞬時に理解し、
「怖ぇから落ち着け。」などといさめる事の出来る人間がこの場に存在しないのが殊更不幸だった。
「だーーーっ!! あかん!! とにかくあかんぞ!!」
二人の仲を検証していても埒があかない。和葉に関わる男は皆敵なのだ。
再び正気を失った頭で、平次は全面否定の言葉を叫んだが、
「はあっ!? 何でよ!!」
訳のわからない命令を、黙って聞く様な性格の幼なじみではない。
素直に事情を話していたのに何事だと、途端に柳眉を逆立てた。
「なっ、何でって、何でもじゃボケェ!!」
「ちょっ、平・・・・・・あ。」
理由を言う事など出来るはずもない平次に対し、
一歩も引くまいという様子で和葉が言葉を発しかけたが、
ふいに、何か思い出した様にその目を見開いた。
「おばちゃんと一緒や・・・・・・。」
「あん? 何やて?」
その言葉に、平次も気勢を削がれ、言葉を返す。
「せやから、おばちゃんと一緒・・・。
おばちゃんも、この話しとって、あたしが看病に行く言うたら怒り出したんよ。
何でって、理由聞いても、平次と同じで言うてくれへんし・・・。」
「・・・・・・。」
「何でなん?」
そう、不思議そうに尋ねる、鈍感な幼なじみの元、平次はすべてを理解した。
静華もまた、和葉が太川航吉の看病に行こうとした事に対し、怒ったのだ。
理由としては、何とも恥ずかしくなる事だが、自分と同じ、心配と嫉妬だ。
静華にしてみれば、和葉を男子高校生が一人でいる家には行かせたくなかったのだろうし、
自分の家以外で和葉がかいがいしく働くのは嫌だったのだろう。
重ねて、和葉が自分の息子以上に航吉と仲良くなってしまったらとか、
更には、そんな和葉を航吉の家族も気に入ってしまったらとか、
それにより、太川家に頻繁に出入りする様になってしまったらとか、
ひいては、もうこの家に来なくなってしまったらとか、
自分の母親ならば考えたかもしれない。
平次と違い、静華ならば、
嫉妬心を隠し、心配を前面に出しての注意も可能かと思われたが、
昔から、どんなに懇意にしていても、服部家と遠山家とは他人の間柄だ。
少なくとも今の段階では。
その様な関係の上で「他人の家に行ってはいけない。」などという注意は諸刃の剣だ。
悪くすれば自分の家に対しても二の足を踏ませてしまう事になりかねない。
「あんたが・・・あんたがしっかりしとらんから・・・っ!!」
まざまざと、静華の言葉がよみがえる。
今ならば、その気持ちが十二分に理解出来た。
確かに、自分がもっとしっかりしていれば、もっとはっきりした言葉を和葉に告げる事が出来たはずだ。
しかし、現時点で服部平次にそこまでの勇気があるはずもなく、
彼はいまだ理由がわからず、困惑したままの幼なじみに対し、
「何でもクソも、あかんもんはあかんのじゃ!!
勝手に行ったら絶対に許さんからな!! 憶えとけよ!!」
横暴としか言い様のない言葉を吐きつつ、
しかしその裏では、何とも言えない後悔と焦燥を胸に抱え、言い逃げの形で客間を後にした。
「な・・・何やのぉ・・・。」
後に残された和葉は一人、静華に怒られた時と動揺に、
訳のわからぬ悲しみに思い悩む事となる。
しかし、いつもより早く帰宅した服部平蔵が息子の怒鳴り声を聞きつけ、客間へと向かった事で、
鈍感故の彼女の悩みは、まだ終わりを告げる事はないのだった。
余談だが、太川航吉の風邪は当日の内に完治していたが、
風邪とは違う、妙な悪寒はそれから数日間続いたという。
終わり
久々に専属挿し絵職人の一人、あるふぁさんに頑張って貰いました。
っつーか、まーたワガママを言いました。
「この設定で宜しくv」的な(最低。)。
でも観て、もう慣れたものですよ、創作入る前からこんなピターリな挿し絵が描けるんだもの。
叱られ和葉が可愛い可愛い可愛い!! 服部家の面々が素敵素敵素敵!!
今回はハナホン名物、妄想平次って事で、かなりお笑い路線の話になっております。
和葉と静華が言い争い!? って出だしは結構シリアスかと思うのですが・・・。
まあ、いきなり扇子でぶちかましておりますが。
しかし、お笑い路線ながら、落ち込む和葉に対する平次は、かなりの甘さではないかと、
自分で書きながらゾゾ毛が立ってしまいました。
「かーずは。」つって、頬を引っ張るんですよ!!
アンタ誰だ!! 丘の上の王子様か!!
まあ、和葉はその時、静華の事しか考えていないので、
平次の優しさ甘さにまったく気づかないんですが・・・。
ついでに、落ち込む和葉に対して、何でこんなに落ち着いた良いお兄さん路線かと言うと、
後半でうろたえまくるからなんですけどね・・・。
うーん、妄想平次は書いていて一番楽しいかもしれません。
ちなみに初級編である白昼夢、
あれがもし、中級編なら添い寝、上級編ならナース服とかが出て来て、
それこそ問答無用で太川君は大変な事になってます。
オリキャラの太川航吉は、実は以前にも名前だけはチョロリラと、二回程出ています。
こういう地味な事して気づいて貰うのが好きなのですが、
大抵はこうして自分で言う事になっています。タハ。
和葉に対しては普通に「服部の可愛い幼なじみ」と思ってるくらいなんだけど、
何か今後、服部家にマークされそうな・・・。
何っにもしてないのにな。
自分的には平蔵が登場し、エンドレス? って感じのオチが大変気に入ってます。
でもね・・・これだけ書いたら、あたしだって思うよ、
家族全員で続けてそんな事してた、それこそ家に来て貰えなくなるぞ!!
多分、最終的には平蔵から事情を聞いた遠山のおやっさんが、
「お前がヨソで迷惑かけんか、心配やけど言えへんかったんとちゃうか?」などと助け舟を出し、
和葉は確かにそうかもと素直に反省し、もっと静華に家事を教わろうとか思って落着するのでしょう。
しかし、航吉も不憫だけど、怒られまくりな和葉も不憫、
でも可愛い子を怒ってしまった服部一家も不憫、誰も幸せじゃない創作。
門外不出の家宝(ヨソの家の子なんだけど。)を巡る、服部一家の物語でございました。
最後に、もう何枚挿し絵を強奪したか、数える事すら不可能となってしまいましたが、
いつもとても感謝しています、一生ヒモでいさせてね、あるちゃん!!