恋より素敵 8
「そうかそうか、その子となあ!! 知り合いか? 会場で会ったんか? 応援に来とったんか?」
その胸中を私に見透かされているとは予想もつかない調子で、
名探偵と評判の服部先輩は矢継ぎ早の質問を口にする。
これは多分、自分が何故ここに来たか、遠山先輩に悟られないよう、
私の事を話題にして煙に巻こうという作戦だろう。
呆れる程にわかりやすい。
「あれ、そう言うたらみちるちゃん、今日は何しとったん?」
そんな服部先輩の作戦に見事に引っかかり、遠山先輩が私に向かって首を傾げて来たので、
私は一瞬、返答に詰まってしまった。
「あ、もしかして俺のファンか? 何ならサインでもしたろか?」
自分の作戦に気を良くしてか、服部先輩がおちゃらけた笑顔でそんな事を言い出す。
アホかボケッ!! 本心隠してそないな事ばかり言うとるから本命に気持ちが伝わらんのやっ!!
私が、今の百倍、活発な性格だったら、そう叫んでいただろう。
ただ、全然活発じゃない私でも、
あれだけ遠山先輩を怒らせておいて、こんな態度を取る服部先輩には心底腹が立ったので、
勇気を振り絞り、五十倍くらい活発な意見を言わせて頂く事にした。
「いいえ、全っ然っ、違います!!
私の友人が他の先輩のファンやから、一緒に応援に来ただけです!!
サインももちろん結構です!!」
「・・・・・・。」
剣道大会で優勝したはずなのに、文字通り、面を食らった様な服部先輩の顔が目に入る。
言い過ぎたかなと、心配になったけど、
横で遠山先輩が肩を震わせて笑っているのが見えたので、それですべてが良くなってしまった。
そのまま、服部先輩から目を背け、遠山先輩の腕に両手でしがみつく。
服部先輩にあんな事が言えたせいか、少し勇気がついていた。
そうして、少し驚いている遠山先輩の耳に唇を近づけ、先輩にしか聞こえない声で囁く。
「遠山先輩、今日は色々とすみませんでした!!
私、ご覧の通り、服部先輩が、その、苦手で、
そんな人と、憧れの遠山先輩がお似合いって言いたなくて、あんな事言うてしまいましたけど、
本当はその、悔しいけど、お似合いやと思います!!」
当初の予定通り謝って、
本当に悔しかったけど、そんな言葉を言い添えた。
ここまで来た服部先輩に免じて、そして、遠山先輩に笑顔でいて欲しくて。
実際には、
「な、何言うとんの!! あ、あたしは別に・・・。」
と、慌てさせてしまうだけだったけど。
「それじゃあ先輩、今日はここで失礼します!!」
遠山先輩からぱっと離れて笑顔を向ける。
「え、けど、駅すぐそこやし、一緒に・・・。」
「ちょっと用を思い出したので、ごめんなさい。」
まだまだ一緒にいたかったけど、私はそう、嘘をついた。
これでも一応、気を利かせたつもり。
お兄ちゃんも遠山先輩も同じだ。
それぞれの付き合いがあるんだし、自分本位になっちゃいけない。
少しは成長しようと、そんな事を考えたんだけど、
「その・・・また、学校で話しかけたりしても良いですか?」
おずおずと、そんな言葉が出て来る辺り、私はまだまだ子供らしい。
でも、そんな私に遠山先輩は、
「当たり前やないの。みちるちゃんが嫌がっても、あたしから話しかけるわ!!」
と、にっこり笑ってくれた。
すっごく嬉しい!!
そんな遠山先輩の後ろで、服部先輩が面白くなさそうにそっぽを向いている。
女にまでやきもちを妬いているのだろうか。
本当に、さっさと気持ちを伝えれば良いのに。
そんな気持ちから、私はちょっと意地悪な気持ちがわいて来て、
「それじゃあさようなら遠山先輩!!
あ、今度私のお兄ちゃん紹介しますね!! すっごく格好良いんです!!」
そう、大声で言ってから、駅に向かって走り出した。
多分、遠山先輩は私がただ単にお兄ちゃんを自慢したいんだと思っただろうし、
服部先輩は・・・まあ、色んな事を考えて大変な事になるだろう。
もちろん、それが狙いの意地悪なんだけど。
そんな事を思いながら、ちらりと後方を振り返ると、
案の定、二人は道の真ん中で、何事か言い合いを始めていた。
それでも、その姿は、悔しいけど、さっき言った通りお似合いで、
胸の辺りが少し、つかえた様な感覚になる。
お兄ちゃんに彼女が出来て、遠山先輩には服部先輩がいて、
寂しくて切ない。
でも、服部先輩の事で遠山先輩の事を傷つけた時、あんなに心が痛かった。
自分がその人を大好きな様に、その人にも大好きな人がいるって、
私はもっと、理解しなくちゃいけないんだと思う。
でも、こんな気持ちになる程、大好きな人がいるのは、増えて行くのは、
決して悪い事じゃないって、少しだけ痛む胸が教えてくれている気がする。
大好きな人に大好きな人がいても大好きでいよう。
そして、私もいつか、あんな風にお似合いだって思われる程、大好きな人に出逢えたら良いな。
終わり
平和では初の一人称、しかもオリキャラ。
16歳の素直で可愛い女の子・・・・・・
自分とはまったく正反対のキャラが書きやすい様です。
関西の子なら一人称も関西弁かなあと思うのですが、まあ、作文みたいな感覚で。
っつーか、そこまで使いこなすのは無理っつーのが一番の原因なんですけどね・・・。
何故珍しいそんな形を取ったかと言うと、
遠山先輩の素晴らしさを書き綴りたかったから・・・v(変態。)
一年生男子から見た平和というのは書いた事があるので、今度は一年生女子から・・・(義務か。)。
それも服部先輩ラヴじゃなく、遠山先輩ラヴな女子が書きたく、
やはり後輩ちゃんは可愛い甘えっ子ちゃんが良いなあと、あんな感じにしてみました。
高梨みちるちゃん、目立たない駄目っ子と本人は思っていますが、
真っ直ぐ育った感じの可愛い優等生で、隠れファンが多いというイメエジで書きました。
小柄でふわふわ癖っ毛の、ひかわきょうこの漫画のヒロインみたいな子が良いなあ(描写しろよ。)。
そこんなみちるの中ですんげえイメエジの悪い服部先輩・・・。
あたしの作品でよく「ファンの女の子に囲まれてでれでれする服部」という描写が出て来ますが、
これは遠山先輩やみちるの誤解で、ただ単に調子に乗ってるだけです。
小学生男子に囲まれても、中年女性に囲まれても、服部先輩は同じ対応です。
って、何であたしずっと先輩先輩言い続けてるんだ。
でも、やっぱり楽しいですね、平次の誤解と嫉妬を書くのは!!(鬼。)
今回も葛城士朗に頑張って貰いました。
どんどこオリキャラ出しまくるのもいかがなものかと思いますが、便利、便利です。
でれでれとし(誤解。)、表彰を受け、
「ちゃんと見とったか!?」と和葉を探したら、
葛城に「言い難いんですけど、その、会場にいた一年生と・・・。」みたいな事を言われ、
慌てて着替えて竹刀や防具を背負い、がっちゃがっちゃと追いかけて来たのでしょう。ナイス熱情!!
和葉は相変わらず、後輩に対しても平次に対しても鈍感ですが。
話としては、平和に絡めた甘えっ子少女の成長・・・ううーん青臭いかなあ。
しかも、ブラコンは落ち着いても、和コンは激しくなってそうですが。
今後は無邪気に和葉に話しかけ、平次は兄を紹介するんじゃと、そんなみちるを警戒して欲しい。
まあ、今は兄と和葉の事で頭が一杯で、「恋より素敵」な毎日を楽しむみちるですが、
いつか出逢いたいと考えてる運命の相手には、実は既に作中で遭遇しています。
でもまあ、そこまでオリキャラで話ふくらませてもな。