恋より素敵 4
「あ、遠山先輩!! ・・・と、高梨さん?」
「葛城君。」
並木道を並んで歩き出そうとした私達に後ろから声がかけられる。
どうも、この道からの帰路は、誰かに邪魔される運命らしい。
振り返ると、隣りのクラスの葛城君が剣道着のままで走って来る所だった。
葛城君とは顔見知りだったけど、用があるのは遠山先輩だってわかっているので、
私を見て意外そうにしている彼に軽く頭を下げて遠山先輩の後ろに引っ込む。
「どないしたん?」
優しいけど、少し硬いと感じる声で、遠山先輩が葛城君に促す。
「どうしたもこうしたも・・・帰っちゃうんですか?」
「うん、せやかてもう用ないし。」
「用ないって・・・。」
サバサバとした、だけどやっぱり少し硬い遠山先輩の声に、葛城君は困った様に眉を下げた。
どうしたんだろう。
「それに、今日はこれから、この子と出掛けるんよ。」
「高梨さんと?」
遠山先輩の言葉に、葛城君が驚いた声を上げる。
突然の遠山先輩の言葉と葛城君の声に、私は驚いてしまったけど、
そんな私を背中に隠す様にして、
「せやから、モテモテ君に宜しく言うといて?」
何とも艶やかな声でそう言うと、
遠山先輩は葛城君との会話を打ち切った。
「ごめんな、勝手に話に出してしもて。」
葛城君と別れた途端、遠山先輩が謝って来る。
「いえ・・・私は大丈夫ですけど、良かったんですか?」
「うん、ええの。」
遠山先輩は軽やかにそう言ったけど、
葛城君の口ぶりから察するに、剣道部の方では遠山先輩にまだ用がありそうだった。
私との約束は別にしても、元々遠山先輩は帰る気だったみたいだけど、どうしてだろう。
葛城君に対してじゃないみたいだったけど、何だか少し、怒っているみたいだったし、
そう言えば、モテモテ君がどうとか・・・。
それってやっぱり・・・。
「みちるちゃん、葛城君とは同じクラスなん?」
先程の一件を考えていた私の顔を、ふいに遠山先輩がのぞきこむ。
遠山先輩はすごく自然なのに、私は、あの憧れの遠山先輩がこんなに近くにいて、
しかも、私の名前を親しげに呼んでくれる事にまだ慣れない。
驚いて、先程の件に関する推理は一気に霧散してしまった。
「あっ、いえ、隣りのクラスなんですけど、委員会が同じで・・・。」
「へえ、そんならみちるちゃんも学級委員なん? すごいなあ。」
違う部活の後輩なのに、遠山先輩は葛城君が学級委員だって事を知っているらしく、
私にも、感心した目を向けて来る。
葛城君とは委員会が同じで、
席が隣り合った時に少し話す程度だけど、優しくて話しやすい。
他の男の子とは全然違った雰囲気で、
それは、中学校まで東京にいたってせいなのかもしれないけど、
優しいだけじゃなくて、一筋縄では行かない面もあるらしく、
確かに、委員会での発言には、頭の良さと同時に、隙のなさも感じ取れた。
156cmの私よりは大きいけど、小柄な外見に似合わず、
剣道もすごく強いという噂で、周囲の子達も一目置いているらしい。
噂通り、今日の大会の試合も、服部先輩に次ぐ活躍を見せていて、驚いてしまった。
私はこの大会に来ている事を他の男の子達に知られたくないって思ってたけど、
葛城君なら、変な事を思ったりはしなさそうだし、
次に委員会で会った時にも「強いんやね。」って、普通に言えそうな気がした。
「すごいなんて・・・葛城君はともかく、
私は・・・押しつけられてなった様なもんですから、違うんです。」
葛城君と知り合いの遠山先輩は、
同じ学級委員という事で、私も葛城君の様に優秀な子だと思ってくれているのかもしれない。
実際、学級委員っていうのはそういう人がなるものだって思うけど、
私の場合は嫌だと言えずになった様なものなので、自己嫌悪を感じつつ、少し卑屈な返事を返すと、
遠山先輩は私の方を見て柔らかく目を細め、
「そうかなぁ、それでも皆、無責任やったりいい加減やったりする人に、
クラスの代表を押しつけたりはせんと思うよ?
実際、みちるちゃんはちゃんと引き受けたんやし、胸張ってええと思うわ。」
励ます様に、そんな事を言ってくれた。
驚いて、目を瞬いてお礼を言いながら、
葛城君の様に委員会で発言したり、クラスの意見をまとめたりする事を、
もう少し頑張ってみようかなって思った。
私も何とも単純な性格だけど、
遠山先輩は思っていた以上に優しくて、そして、すごく不思議な人だ。