子供好きの災難 3


        誰もおらん・・・。
        二人っきり・・・。
        和葉の言葉が脳内をぐるぐると駆け巡る。

        夕食時、
        「今日はコナン君の好きな物、ぎょうさん作ったから、遠慮せんとどんどん食べてな?」
        「うわぁ、ありがとう和葉姉ちゃん!!
        でも僕・・・僕・・・ご飯はあーんして貰わないと食べられないんだぁ〜。」
        「そうなん? しゃあないなぁ・・・はい、あーん。」
        子供演技でとんでもない事を言い出すコナンに、
        とろける様な甘い表情で手料理を食べさせてやる和葉。
        入浴時、
        「お風呂、熱かったら水入れてええからね? でもきちんと肩までつからなあかんよ?」
        「うわぁ、ありがとう和葉姉ちゃん!!
        でも僕・・・僕・・・・一人じゃお風呂に入れなぁい。」
        「そうなん? しゃあないなぁ・・・そんなら一緒に入ろ。」
        子供演技でとんでもない事を言い出すコナンに、
        とろける様な甘い表情でポニーテールの髪をおろす和葉。
        就寝時、
        「コナン君寒ない? トイレに行きたなったらあたしの事起こしてもええからな?」
        「うわぁ、ありがとう和葉姉ちゃん!!
        でも僕・・・僕・・・怖くて一人じゃ眠れないよぉ〜。」
        「そうなん? しゃあないなぁ・・・はい、こっちおいで。」
        子供演技でとんでもない事を言い出すコナンに、
        とろける様な甘い表情で自分の布団を持ち上げる和葉。

        「うああああああっ!!」
        遠のきかけた意識の中で上映された、
        「江戸川コナン、遠山和葉宅にお泊りの巻」のハイライトシーンに対して、
        気も狂わんばかりの叫び声が上がる。
        あんのクソガキッ!! 子供のフリして和葉に何させとんねん!!
        手料理ああああーんで、ふっ、ふっ、風呂で、そそそ添い寝やとぉっ!?
        許さん、絶対許さん!!
        ・・・刀・・・親父の刀・・・!!
        震える体を抑えつつ、
        和葉にべったりとまとわりつき、こちらを見てニヤリと笑う、賢しい小学生を成敗すべく、
        父親の所持する居合用の刀を持ち出す所まで思考は進んだが、
        「へ、平次? どないしたん?」
        突如として叫び声を上げた自分に対する和葉の声で、何とか正気を取り戻す。
        「あ・・・いや、何でもないわ。」
        「そう? そんならええけど・・・。」
        そうや・・・何白昼夢見とんねん俺、
        いくら子供の体しとるとはいえ、あいつは俺が認めた唯一無二のライバル、工藤新一や。
        姉ちゃんがおるのにあいつがそんな事するはずないやないか。
        しっかりせえ、服部平次・・・。
        遠い目で在りし日の推理対決に思いを馳せながら、
        現在工藤新一が置かれた厳しい状況を思い起こす。
        そう、工藤新一は大変なのだ。
        工藤新一は・・・。
        脳内に浮かぶ生意気な小学生の映像を、
        何とか苦悩する高校生に切り替えたまでは良かった。
        しかし、そこに頃合悪く、平次の葛藤など知る由もない、無邪気な和葉の言葉が転がり込む。
        「そや、そう言うたらコナン君って工藤君とも親しいんやろ?
        コナン君泊まりに来たら、工藤君の事も色々聞けるかなぁ?」


        工藤の事が・・・。
        色々聞きたい・・・。
        和葉の言葉が脳内をぐるぐると駆け巡る。

        「ははは、僕の話が聞きたいのなら、僕本人にいつでも言って下さいよ和葉さん。」
        「服部と同じ名探偵? そいつは違うな・・・。
        俺は服部よりも数段優れた名探偵なんだぜ、和葉・・・。」
        「信用出来ないなら教えてやるよ、この俺の素晴らしさを、朝までじっくり、色々とな・・・。」

        「・・・・・・!!」
        遠のきかけた意識の中で上映された、
        「工藤新一、遠山和葉宅にお泊りの巻」の工藤新一名台詞集に対して、
        両の爪がぎちぎちと手のひらに食い込む。
        もはや声すら上がらない。
        馴れ馴れしく俺より優れて和葉を呼び捨てで朝までやと・・・!!
        額にいくつもの青筋を浮かべながら、意味の繋がらない言葉を脳内に渦巻かせ、
        蔵に眠る、井上真改の名刀を持ち出すべく、ゆらりと立ち上がる。

        ・・・三途の川の渡し賃は六文やで工藤・・・っ!!