稀少の花
静華の言いつけで、知人の祝いに贈る花の注文を、
懇意にしている近所の生花店で済ませた帰り道。
いつもの如き付き合いの良さで同行し、
平次に代わっててきぱきと予算や祝いの趣旨を告げ、
注文作業を代行した和葉は、
「最初からお前が一人で行ったら良かったんとちゃうか。」
という、平次の悪態にも、いつもの様に言い返す事はせず、
とかく上機嫌である。
原因はと言えば、その両手に包まれた一本の花。
顔見知りの店員から、お使いのご褒美と、冗談めかして渡されたそれを、
和葉は目を細め、嬉しそうにながめている。
真横の平次はと言えば、
すこぶる不機嫌、である。
原因はと言えば、彼自身は決して認める事は無いであろうが、
和葉にその花を手渡したのが、
その店でアルバイトをしている大学生の男だという事で。
冗談めかしての行為の裏に隠された下心は、
外で待つ自分に向けられた穏やかならぬ視線により、
しっかりと読み取らせて頂いた。
なぁーにが「和葉ちゃんに似合う思うで。」やボケ、
仕事中に耳から種入って頭ん中で花咲いとんのとちゃうか。
頭脳派の探偵とは思えぬ、非科学的な悪態を脳裏に巡らせつつ、
ちらりと隣りの和葉を見る。
「・・・・・・。」
花がほころぶ様な、というのは、こういう事を言うのだろうかと、
手にした花と意思の疎通があるかの様な、嬉しそうな横顔を見て密かに息を飲む。
タダだから、とか、そういう事では無いのだろう。
俗に言う、花を貰って喜ばない女はいない。
というやつなのだろうか。
無論、この場合、重要なのは花であり、
貰った相手では無いはずだ。
決して。
和葉の持つ花は、優美な桃色のアマリネという花で、
アマリリスとネリネを交配させた花だと説明を受けていた。
すっきりと伸びた茎の先には大輪の花がその花弁を外側に優雅に伸ばし、
一輪とはいえ、その艶やかな姿は見事な美しさと芳香を放っている。
野の花とは間違いなく一線を画すその花からは、
ご褒美などという建て前の裏で、しっかりと自腹を切っていそうなあの男の様子が伺える。
その見立ては、まぁ、花屋で働く人間にする程度の賞賛を与えても良いと思う程度には、
和葉に似合ってはいたが。
いたのだが、やはりそれは面白くない。
自分なら。
「・・・・・・。」
しばし考えて、せき込みそうになる。
和葉に似合う花を考えて、
あろう事か、花束を携えた自分を想像してしまったのである。
違う。
こんなに喜ぶなら、とは思うが。
他の男から受け取るな、とは思うが。
違う。
いくら何でもあの自分は違い過ぎる。
違うどころか怖い。
そのまま、よりにもよって深紅の薔薇などに変貌していく花束を持った自分の姿を、
冷や汗を浮かべつつ、やっとの思いで東の名探偵に置き換え、
ついでに白のタキシードなどを着せてみせる事で、
恐ろしい想像になんとか一段落をつけ、平次は嘆息した。
無茶はすまい、と。
しかし、後日、
府内某所にて、ふと目に付いた、
手のひらに乗る程度の大きさの、小花の鉢植えを何の気無しにながめていると、
気に入ったのなら持ち帰っても良いと側にいた人間に言われ、
まぁ、この程度ならと荷物にしまいこんだのは、
先日の和葉の笑顔を念頭に置きつつの、
彼にしては最大級の無茶ではあっったのだが、
それでも自宅の居間で話し込む和葉と静華の中間に、
どちらにとも言わず、無造作にその鉢植えを置いて見せる所は何とも平次らしかった。
しかし、
「貰い物や言うても、あんたにしては気の利いた事したなぁ、
和葉ちゃん、良かったら持って帰り。」
息子の珍しい行為の裏を読み取ってか、
和葉に鉢植えを差し出す母親に、そこはかとなく感謝をしつつ、
「え、ええの？」
と、目を見開いて静華と自分を交互に見て確認をとる和葉に、
「別に構わんで。」
と、素っ気ない返事を返しつつ、
鉢植えを受け取って、ほころびかける和葉の表情に、もう一歩だと、
ごくごく自然な動作で和葉に視線を合わせた時、事件は起きた。
「・・・ちょお待って。
平次、今日行っとった所って・・・ちょっ、この鉢植え、どこで貰って来たん？」
笑顔を浮かべかけた和葉の表情がぴたりと固まり、
突如として平次にそんな事を問いかけて来る。
「そんなん決まっとるやんけ。」
何を当たり前の事を、とでも言う様に、平次は口を開いた。
さて、その後、高校生ながら数々の難事件を解決して来た事で有名な、
西の名探偵・服部平次が何と答えたかは、ご想像にお任せするとして、
結局の所、件の鉢植えは服部静華の判断により、
服部平蔵の見事な盆栽コレクションと共に、服部家の庭に並べられる事になる。
元々の受け取り人はと言えば、怒りこそせず、
かの母親の叱責を受ける幼なじみに、半ば同情的な目を向けはしたものの、
受け取り損ねた鉢植えと、今更ながらの幼なじみの朴念仁さを思うと、
ため息は隠しきれなかった。
しかしながら、花を受け取り損ねた和葉と時を同じくして、
花を見損ねた人間がいたという事は、
当人のみぞ知る、悲しき事実である。
終わり
かわいそうな服部平次・・・。
はっ、てめぇで書いといて思わずそんな感想が！！
そんな訳で、作者の性格はさておき、今回は普段よりややお笑い風味な平和創作でございまス。
あくまでやや・・・ときキャンをベースに置きつつ・・・。
こちらは最初にイラストありきの作品で、
花を持った和葉を見つめる平次の絵を描いたんだけど、
何か、それだけ見ると、平次が花をあげたみてぇだなぁと思い、
ウチの平次にそんな甲斐性ある訳ねぇっすよ〜、と弁解しようとしたんだけど、
何だか長くなりそうなので、結局この創作を書きました。
いやぁ、どうにもこうにもウチの平次が和葉に物を贈るっていう図が想像出来なくて、
どんなに気張っても食べ物とか、後々残らない物・・・とか、
お前は犯人か的な物しか思いつかず、花なんて滅相も無い！！ って感じでね・・・。
そんな訳で来たよワンパの風！！
今回は花屋の兄ちゃん！！ 今回は、とか言えちゃう自分が嫌ザマス！！
無論それは服部平次のヤキモチの相手！！
ああん、ハナホン創作はこれがなくっちゃあ！！（自分で言うな。）
築山生花店は（今考えた名前。）静華が懇意にしている花屋さんでね、
静華とよく一緒に行く和葉も、そこの店員さんとは懇意で、
バイトの兄ちゃんも・・・って感じでス。
しかし、良いなぁと思っていた美人母娘の娘が男を・・・不憫な・・・。
一応アプローチはしている様ですが、君は誰を相手にしているか知ってるのか！？
どうなんでしょうねぇ・・・考えろって感じだが、
まず彼の名前も風体も考えてねぇしなぁ、いやはやなんとも。
そんな兄ちゃんが和葉に贈るアマリネ、
綺麗だとは思うけど、あたし的に和葉のイメェジでは・・・やはり日本の花？
ま、名も無き青年が何をイメェジしようと、あたしに関係無いっていうかー（ひどすぎ。）。
そんな訳で、そんな彼の行為を苦々しく思いつつも、
あんなに喜ぶならと思いつつも、自分には無理だと思いつつも、
ちっょと頑張っりつつも、結局根本的に大事な何かが欠けているという、そんなウチの平次。
花を喜ぶのはわかっても、花なら何でも良いって訳じゃない事はわからないという・・・。
周りが思う程、朴念仁では無いんだけど、やっぱり天然の朴念仁。
そんな平次が書きたかったのです・・・って、ひどいね。
でもな平次、お前のくれる物だったら、出所さえきちんとしていれば、
和葉はたとえ消しゴム一個でも笑ってくれるよ・・・
と、ホットドックあたりでもしねぇ様なアドバイスしてみたり。
花束を持つ自分に眩暈を憶えるあたり、
西の名探偵も客観的に自分を見る事が出来る様で一安心ですが
（あくまでウチの・・・ですので、服部平次は花束が似合う会の人々、怒らないように。）、
そこで白タキ着せられた上に薔薇と変化したそれを持たされる工藤新一・・・。
いやはやとんだ友情出演っすな！！
一安心している平次の妄想の中で、「おい。」とかツッコミ入れてる図希望。
さてさて、そんな訳で花の出所は・・・わかりますよね？
でもまぁ、だからと言って敬遠するのも失礼なので、
それは静華の采配で、平蔵コレクションとなり、
結局の所、ハナホンにおける服部平次の遠山和葉へのプレゼンツ、現在ゼロ。ああ・・・。
何か、これくらいなら・・・って物を思い浮かべられる日が来たら良いなぁと思いまス。
そして稀少の花を見る事は叶わず・・・って、
「東への理由」と言い、そんなに平次の前で笑わねぇのか、ウチの和葉。
いやぁ、なんつーかこう、見とれるようなふわっとした笑顔はなかなかね・・・。
あたしも見たいです（お前関係ねー。）。