角度の問題 5
街灯に照らされた並木の緑が夜目にも美しい。
バイクを押しているので、平次の歩調も今日はいつもよりゆっくりだ。
心地良い道を緩やかな速度で歩きつつ、
和葉はまだ病室に残っているであろう、式子と政悟の事を考えていたが、
「しかし、お前もアホやのー、一番心配しとる人間が側におる相手の所に飛び込んで行きよって。」
平次の声によってその考えを中断される。
まだ先程の出来事を蒸し返したいらしい。
「ええやろ、別に、心配でたまらんかったんやから。」
「ほーお、しーんぱいでたまらーんかったかー、お邪魔虫やのになー。」
反論を返すも、いまだどこか不機嫌な調子で返される。
機嫌の度合いを天気にたとえるならば、
最初が雨で、のちに何故か嵐、更に転じて今は曇りと言った所だが。
「もう、平次の事とかも思い出して、貧血になるかと思うたんやからね!!」
負けてはいられないと果敢に言い返す。
「へ? 俺の・・・?」
「病院にいっちばんお世話になっとんの、誰やと思うとんのよ!!」
平次が事件や試合で小さからぬ怪我を負う度、
病院に付き添ったり呼び出されたりした記憶は少なくない。
時には、死にかけた事もあったのだ。
そんな感覚と政悟への心配が入り混じって、あの時は本当にどうにかなってしまうかと思った。
少しは反省して欲しい・・・と、平次の顔を睨んだ和葉だが、
予想だにしなかった、呆けた表情に行き当たり、目を見開く。
「な・・・どないしたん?」
「いや・・・・・・。」
和葉の疑問から逃れる様に、平次がバイクを押したまま、その歩みを速める。
特別、意味はないのかと、和葉もその後に続こうとしたが、
「俺の事思い出したんか。」
と、確認とも独り言とも取れる声が前方からぽつりと流れて来た。
「せやからそう言うてるやん!!」
のん気に何を言ってるのだ、まったく反省の色がない。
すばやく返答を返し、和葉は頬をふくらませたが、
「そーらすまんかったなー。」
振り返った平次の、不意打ちの笑顔に、思わず心臓が高鳴る。
人が真剣に話しているのに軽い謝罪で返す相手に対し、馬鹿みたいな心臓だ。
「まぁ、俺も今後はお前に心配かけんよう、気をつけるわ。
ほんまになぁ、心配かけたら悪いもんなぁ。」
軽い自己嫌悪に陥るあまり、
前を行く男の機嫌が急上昇している事にはまったく気がつかなかった。
どう考えても反省しているとは思えない、歌う様な口調をおかしいとも思わず、
不用意にときめく精神に渇を入れる様に息を吸い込み前を見据える。
「ほんまやわ、だいたい、あたしの周りには病院に縁のある人間が多すぎるんよ!!
大滝さんに布川さんに内海さんなんかも職業柄、しょっちゅう怪我しとるし、
お父ちゃんや平次の所のおっちゃんも無茶する所あるし、
おばちゃんやってああ見えて、物落として足の指骨折した事あったやろ?
コナン君が撃たれたってあんたに聞いた時は心臓止まるかと思うたし、
ついこの前も葛城君が他の子が転びかけたんかばって頭三針・・・
あ〜、あかんあかん!! 何思い出しても血の気が引くわ!!」
数え上げたらキリがない、周囲の負傷者達の思い出に、
和葉は両腕を抱く様にして眉をひそめたが、
「・・・そら大変やな。」
前を行く平次の言葉はにべもない。
「何やのその態度!!」
まったく、その中でも群を抜いて怪我が多いのは誰だと思っているのだ。
「すまんなぁ、色ぉぉぉんな奴の事が心配な和葉ちゃんと違うて薄情で。」
「なっ、何やのその言い方!! あ、またおせっかいやとか思うとるんやろ!!
しゃあないやろ? 心配なんやから!!」
「せーやーなー、ほんまにお前はだぁーれにでも優しい、ええ奴やなぁぁぁ。」
「平次ーーーーーーっっ!!」
馬鹿にした様な平次の口調に対し、
真っ赤になった和葉は大声を張り上げた。
グレープフルーツの様な満月が、そんな二人の行く先を柔らかに照らしている。
終わり
ハナ日記をご覧の方なら数年前からなされている、
あたしの反省をとうにお気づきかと思いますが、
「ハナホン平次、和葉を迎えに来すぎ。」
そらもう、やばい程に!!
うう・・・ヤキモチというワンパターンは、
メイン・テーマだと言い切る事でクリアしたものの(勝手に。)、
またもワンパターンの壁が立ちふさがろうとは・・・。
まぁ、友人の「それが正しい形。」という言葉を受け、
今後もこの路線で突っ走ろうと思った次第ですが(完結早ぇなおい。)。
そして突っ走って書いたのが前作の「星空独奏曲」
こちらで迎えに来る理由を考えた際、思いついたのが原田政悟の入院だったのですが、
「星空〜」はヘルメットがメインの話だったので、
迎えに来る理由が大きくなりすぎてもなと簡単なものにし、
そのネタはそのままこちらにスライド・・・。
そういう事やってるからどんどん服部お迎えネタが増えて行くんだよ。
オリキャラ原田政悟は二度目の登場なのですが、お気づきになった方はいらっしゃったでしょうか。
昔々の前作ではきちんと登場しなかったので、あまり深く考えていなかったのですが、
久々に使ったら平次とキャラかぶってんじゃんと、過去の自分にモンキング(文句+ing.)。
まぁ、好きな女への態度が180度違うって事で、
許してチョンマゲ、ナハッナハッ(ハナさんは疲れています。)。
そんな政悟の想い人、更にオリキャラ紺野式子。
書いてて再び訪れる、嫌な予感・・・。
また「平和を取り巻く迷惑なカップル」書いちゃった・・・!!
不幸せ同様、ワンパターンを数え上げたら一晩でも足りないハナホン創作、
もういいやと思ったので、次もあるかもしれません。
ちなみに、このカップルの特徴は、オチがわからない事。
書くとそっちがメインになって平和が引き立たなくなっちゃうし、めんどいし(正直。)。
ついでに今回、年齢が高かったので、式子の告白もちょっと大人気ないかなぁと思う中、
「頑張って今から告白して来るわ!!」と、まとめるのもクサいなぁと、
素敵な予感がするという、ありがちオチに・・・!!
そして、毎度おなじみヤキモチ平次、
ウチでは誤解があって喧嘩しても、その後、あまぁく仲直り・・・v
みたいな展開がないから、自分で書いてて、平和も自分も進歩がねぇなぁと・・・。
ごめん、今回反省が多すぎる!!
玉子が好きだから玉子料理をたくさん出すのは良いけれど、
飽きの来ない味のバリエーションをつける事も大切なんだよね!!
適当な比喩表現で話まとめんじゃねえよ、玉子料理ばっかで良い訳ねえだろ。
他の男の心配して突っ走ったと聞かされ、別に良いと言うのに迎えに行き、
もしやそいつが好きなのかと心配し、まわりくどい事この上ない妨害を謀るも、
自分の事を思い出したと言われ、不謹慎にも機嫌は上昇、
しかし彼女の心配は万人に・・・って事で、
三者凡退スリーアウトチェンジな服部君でした(野球知識ゼロ。)。
タイトルは数学とは関係なく、
正面からの心配顔ではなく、横顔、つまり他人に向けられた心配顔は面白くないという、
てめえ勝手丸出しな服部平次の精神から。