別世界の受難 1


        最良の日になるはずの日曜日だった。
        所属している演劇部の顧問の結婚祝いを、
        男子の代表である自分と、女子の代表である、
        密かに想いを寄せている津森伊吹とで買いに行く事になり、
        駅前で午前十時に待ち合わせ・・・。

        多分、時間が余るやろら、映画でもって誘って・・・。
        お、おかしくないよな?

        津森伊吹はおっとりとした、お嬢様風の少女だが、
        全国でも有名な改方学園の演劇部の中でも、随一と言われる演技力の持ち主である。
        だが、それを鼻にかけるような事は微塵もなく、
        ミーティングにも真剣に取り組み、雑用も進んでこなし、
        誰にでも優しい、ふんわりとした笑顔を振り撒く。
        意外に好奇心旺盛で、お喋り好きな所も可愛い。
        そんな風に考えている人間に取って、
        今回の買い物にくじ引きで選ばれた事は、願ってもないチャンスだった。

        そないついとる方やないんやけどな、俺・・・。
        苦笑いで時計を見れば、十時十五分前。
        少し浮かれすぎたなと考える目にこげ茶色のブーツが映り、
        伊吹のイメージとは少し違うが、私服を見た事がないので、新しい発見かもしれないと、
        少し緩んだ顔を上げると、そこには伊吹ではなく、
        彼女と同じクラスの遠山和葉の顔があった。

        最良の日になるはずの日曜日が、傾きかけた瞬間である。