色のない蝶 4
「ほお。」
大事な大事な幼なじみへの姦計に次ぐ悪口に、
この名探偵がどんな表情を返すのか、自棄とも言える気持ちで見守っていたが、
意外にも間延びした声を返され、
逆にそれが計り知れない恐怖に感じられて、葵はひるんだ。
しかし、今更引く訳にも行かず、早口で言葉を継ぐ。
「・・・明るくて真っ直ぐで、純真無垢を絵に描いた様で、
何の苦労も知らないで、皆に大事にされて育って来たって感じ。
嫌いなのよ、ああいう子。」
多分、先程平次が語って見せた、
事件現場で見せられる女の汚さについても和葉は知らない。
平次がおかしな誤解を避ける為に黙っているのが大筋だろうが、
そんな汚いものから遠ざけておきたいという、小奇麗なエゴの様なものも感じられて、
柔らかでいて頑丈な繭に包まれた様な和葉の境遇に、純粋に苛立ちがつのった。
「ぶはっ。」
葵とは正反対に、平次はおかしさがつのったらしく、
思わず、と言った笑い声が発せられ、葵は眉をひそめた。
「・・・何がおかしいの。」
「いや・・・あんたのイメージやとオヒメサマみたいな女や思たら、
本物とのギャップに吹き出してしもた。
あれはそんなええもんやないで。幼なじみの俺が言うんやから間違いない!!」
「・・・・・・。」
力説しながら、昨日も引っ掻かれてなー、
と、どちらの腕だったかと確認する平次に葵は白けた瞳を返す。
結局、幸せなのだと結論付けて、
葵はそのまま平次から背を向けてこの場を去ろうとしたが、
「ついでに、おかしかったんはもう一つや。
他人の勝手なイメージっちゅうのに、あんたも苦労してそうやのになって。」
「・・・・・・。」
驚いて振り返ると、皮肉めいた瞳がそこにあった。
自分の外見だけを見て、一方的な想いを告げて来る男に、
何も知らない癖にと冷たい返事を返した事は、入学以来、一度や二度ではない。
一年の癖にと、年齢だけで自分の実力を見てくれない先輩に、挨拶など不要だと思った。
彼らと、一度も話した事のない和葉に勝手な評価をして毛嫌いする自分と、
何が違うと言うのだろう。
「・・・ごめんなさい。」
口から出たのは、自分でも驚く程素直な謝罪の言葉だった。
「まあ、俺に何かしとる分には構わんわ。」
葵にしてみれば、それは和葉に対する発言への謝罪だったのだが、
本日の茶番に対する言葉と受け取ったのか、平次が静かに笑ってみせる。
言外に、幼なじみに何かすればただでは済まさないと言っている事に、
本人は気づいているのだろうか。