遠近両用
「何や、来とったんか。」
学校から帰宅し、台所からの物音に足を運び、
そこに和葉の姿を見つけ、平次はさほど驚きもせず声をかけた。
自分より先に夕食の席についてる事すら、珍しい事では無い幼なじみである。
「うん、帰りにおばちゃんに宅配便来るから言うて留守番頼まれてな。
玄関に来とったやろ?」
「ああ、田舎から何か来る言うてたな、あれか。で、おかんは?」
「町内会、ゴミ対策の練り直しやて。」
「は、しょーもな。」
短くそんな事を述べ、平次はガス台の上でコトコトと鍋が二つ、煮立ってる事に気がついた。
見れば、まな板の上にも、きれいに切られた野菜が水を張ったボウルに浸されている。
「なんや、あのオバハン、料理途中で行ったんかいな。」
日頃、家事に関してはきっちりしている静華らしからぬ行動に、平次が驚きの声を上げる。
「ああ、あたしや。ただ待っとっても暇やから何か作ろ思て。
おばちゃんも助かる言うてくれたし。」
言って和葉は、宅配便が来た時に外したのか、
テーブルの上に置いてあったエプロンを広げて見せ、再び制服の上につけ始めた。
「ほー、献立は?」
「筍とフキの含め煮と三つ葉となめこのみそ汁と、あときんぴら。」
「・・・お前、ほんまに女子高生か? だいたいなんで野菜ばっかやねん。」
二つの鍋の内訳と、水に浸した野菜の今後を和葉が語ったが、
見事に和食・野菜類の並んだその献立に、平次が真顔で問い返す。
「なっ・・・おばちゃんが帰りに肉と魚買うて来る言うてたし、
そんなら野菜もんだけ作っといた方がええ思ただけや!!」
「ほ〜。」
怒る和葉に、平次は馬鹿にした様に間延びした返事を返しつつも、
自分とそう変わらぬ帰宅時間で、これだけの事をしてのける和葉の手際に密かに感心した。
それでいて、味の方もなかなかだと言う事も知っている。
「・・・・・・嫌いやった?」
「あん?」
「・・・せやから、平次、嫌いやった?」
平次の胸中など知る由も無く、からかいを不満と取ったのか、
怒っていたはずの和葉が、急に心配そうに顔をのぞき込んできた。
普段は気が強く、一に対して十は言い返して来る様な性格のクセに、
時折見せるこんな気弱さは反則では無いだろうか。
その上、考えすぎだとわかってはいるが、
自分に喜んで欲しかったと取れる様な、その言い回しも。
「・・・別に、嫌いや無いわ。」
「・・・そんなら文句言わんとき。」
頭では色々考えつつも、ようやく短い言葉を返した平次に、
対する和葉もいつもの調子を取り戻してそう切り返し、プイと背を向けたが、
それでも幾分ホッとしたのか、料理を再開する様子は、心持ち軽やかだった。
「・・・・・・。」
着替えをしに、自室に戻ろうと考えつつ、
自分に背を向け、野菜の水切りをする和葉の姿を平次はぼんやりとながめた。
自分の家の台所に立つ、エプロン姿の幼なじみ。
いつか・・・・・・。
「平次?」
「わっ!!」
突然、和葉がくるりと振り返り、思わず平次が声を上げる。
「・・・何やの、急に大声出して。」
「お前が急に声かけるからやろ!!」
「はぁっ!? 声かけるのに『これから声かけるでー。』なんて言う奴おらんわ!!」
「口の減らん女やなぁ、何やねん!?」
無意識だ。
無意識とはいえ、とんでもない事を考えていた手前、
後ろめたさから声を荒らげる平次に、和葉もまた、いつもの調子で応戦する。
「お茶でも飲むか聞こ思たのに、何慌てとんの?」
「別に慌ててへんわ。・・・着替えて来るから入れとけ。」
このままここにいたらまずい。熱を冷まさねば。
そう考えて、平次はきびすを返した。
「何やの、偉そうに・・・。」
ぶつぶつ言いつつも、和葉は茶箪笥から湯飲み等を取り出す。
「だいたいお前、暇やったら俺の部屋で本でも読んどったらええやろ。
留守番頼まれて料理もしとくなんて、あのオバハン甘やかしすぎやで。」
自室へと向かいかけ、思い出した様に振り返って和葉に告げる。
そもそも、やたらと和葉に依存する静華の意志に、
自分に向かう何かを感じ取らずにはいられない。
「自分の事は自分で。」ちゃうんかい。
心の中で、幼い頃から言われて来た教訓を交えてツッコミを入れてみたりする。
無論、料理等の事では無い。
「・・・・・・。」
平次の言葉に、和葉はポットの湯の残量を見ようとした手を止めて、何故かポカンとしている。
「おい? 何呆けてんねん。」
「・・・へ? あ、えっと、おらんのに悪いかと思て。」
平次が強く問いかけると、和葉はやけに歯切れ悪く、ようやくそんな言葉を返して来た。
それが自分の部屋に入る事に対しての意見だと、ややあってから気づき、
「何言うてんねん、今更。」
と、短く言い捨てて、平次は今度こそ自室へと向かった。
「・・・ったく。」
自室に続く廊下を歩きながら、つぶやきを漏らす。
昔は帰れば和葉が部屋にいる事など普通だったのに、
考えみれば最近はそんな事も無くなった。
こうして段々と距離は広がって行くのだろうかと、
たった今、自宅の台所で料理する幼なじみを見た後ですら、思わずにはいられない。
部屋におってええなんて、結構特別なんやけどな・・・。
「・・・はぁ。」
平次が台所から離れた事を確認して、和葉はため息を漏らした。
確かに昔は平次のいない時でも平気で平次の部屋に入り、くつろいでいたものだが、
最近は色々と意識や遠慮が芽生えて、それもしなくなった。
しかし、対する相手はと言えば、まったくもって変わらず、昔のままなのだ。
これではまるで男友達扱いだと、虚しさがこみ上げて来る。
部屋におってええなんて、まったく意識しとらん証拠やん・・・。
そうして、少しの距離のもと、二人は相手に対して、同じ言葉をつぶやく事になる。
「わかっとらんなぁ・・・。」
終わり
誰が何と言おうとマンガ向き。
真ん中で分けたコマの片方が肩越しにカバン持った平次、
もう片方がおたま持った和葉で、真ん中にラストの台詞・・・
ってな絵が浮かんだものの、挿し絵描けない奴にマンガなど(以下略。)。
でも創作にしたら短いかなぁと考えたのですが、
これは、あたしの創作の問題点の一つである「無駄に長い。」を克服する、
良いチャンスなのでは!? と、ひらめきときめきナウゲッタチャンスと(意味不明。)、
頑張った次第ですが、やはり無駄に長かった・・・つーか前置き長すぎ。
料理、やはり大阪は和風って事で和食・・・もちろん洋食も出来ます(自分内設定。)。
「格闘少女は料理下手。」がセオリーとは思いつつも、
蘭も出来るし、既に原作で何か作ってたしで、ウチの和葉は料理上手。
しかし繊維質の物作りすぎですな。
最初は五目豆も考えていたのですが、あれは結構時間がかかるなとみそ汁に変更。
しかしそれまで並んでいた日にゃあ・・・。
バレバレで平次の好物とか作らせてみたい気もしますが、知らねぇし!!
ま、和葉の作った物なら・・・って、すげぇベタですな!!
エプロン姿で自分ちの台所に立つ和葉に、妄想繰り広げちゃう平次。
・・・って、違う!! そっちじゃねぇ!!(どっちだ。)
近い将来・・・って、あっちですよ!!
小坂明子的な!!(好きだなソレ。)台所とエプロンと俺!!(そんな曲ねぇ。)
くれぐれもヤバイ方面に行かない様に、ときめきキャンディラヴ作家からのお願いです。
でもセーラー服にエプロンって良いよな!!(お前がどっち行ってんだ。)
しかし今回、服部ドリーマーだなぁ・・・我ながらイメージ違いすぎ。ま、無意識って事で。
静華はやっぱ、平和でいて欲しいなぁ。しかも和葉至上主義。
今回用事頼みまくりですが、
帰ると和葉がいて、和葉の作った物が食べられる・・・
と、息子の為に画策している様でいて、実は自分の為だったりしてな。
そんな事ばっか考えてる主婦!! うわ、良いお友達になれそう!!
ちなみにウチの和葉は、いない時は入らないけど、
平次がいれば、たとえ寝ててもずかずかと部屋に入っていく、そんな性格。
面と向かっては傍若無人な感じだけど、実は結構遠慮してるという。
でもこういう、電車の上りと下りに乗ってすれ違う様な、
今振り向けば会えるのに!! みてぇな、
母を訪ねて三千里的(わかりづらい。)シチュエーションを書くのは大好きです。
こうして原作平次のあの言動の数々を深読みしまくって、
お互い鈍感なんだって事で自分の心を無理矢理納得させ、
花屋堂の一日は終わるのです・・・って、怖。
タイトル、誰も眼鏡してねぇよ。ツッコミはごもっとも。
いや、その、近い存在でありながら、お互い誤解してるって事で遠くもある、
でもやっぱり・・・みたいな感じで、ハイ、遠近両用。
わかったよ、うまくねぇよ。
<補足>
さて、上の言い訳に呼応するかのごとく、
挿し絵・・・の様な1ペイジマンガがついているのにお気づきか!!
そう、あのマンガはあたしのつぶやきに答え、
日記でお馴染みの、謎の同人屋さんが描き下ろしてくれたのです!!
「描けって事かと思って・・・。」って、わーーーっ!!
じゃあ何か、あたしが事あるごとに後書きで「マンガ化希望マンガ化希望。」とつぶやいたら、
それは叶うって事か!! ドリコメ!! じゃねぇ、ドリカム!!
今後ともよろしくメカドック!! よろしくチューニング!!(錯乱。)
うわー、すげー、すげー、少女漫画だよ、点描だよ、フラワートーンだよーっ!!
ときキャンレベルに合わせて無茶したな!!
するとやっぱり、平次の学ランの裏地は、
魔太郎のマントの裏地がごとき薔薇トーンですか!?(少女漫画じゃねぇ。)
難を言えばコマは縦割り、背中合わせをイメージしていたのだが、そこはそれ(お前・・・。)。
台詞が微妙に違ってる所もアニメ化みたーいv(謝ってたのに、この返し・・・。)
いやはや、それにしたってイメェジ通り!!
マジで最初に見た時臓物飛び出すかと思いました。
内容に加えて、修正が必要無い程に美しい原稿にも、ひたすら感激したあたしです。
ありがとう、ありがとう、謎の同人屋さん!!
何が最大の感謝って、平和じゃないのに!!
そんな訳で、この創作、捧げるっつってもいらねぇかなぁと思ったのですが、
いるっつったのであげる(軽っ。)。
だからもう最初から全部描け!! 許す!!(調子乗んな。)