<起爆剤>


        氷と炎、
        対極でいて同じもの。

        冷静さは大切だ。探偵としては特に。
        それは推理を進めて行く上ではもちろんのこと、
        犯人と対峙した時にも決して忘れてはならない、
        課題であり、不文律であるとも言える。
        しかし、あの瞬間、服部平次は明らかに、その戒を破っていた。
        それも、自己の感情により。

        何事か言うべきかと、江戸川コナンは傍らの男を見上げたが、
        珍しくうつむいた、影を作る前髪の下のその表情を目にして、その考えを取り消した。
        頭では、あの時の言葉が間違っていると思ってはいても、
        この男の感情が、わからない訳ではない。
        自分だったら。
        そう考えると無意識に眉と眉の間隔が狭まる。
        彼女だったら。
        そこまで考え、彼はわかるかわからないかの動きで軽く肩を落とすと、
        不問だと言わんばかりに、いつもと変わらぬ調子で呼びかけた。
        「行くぞ。」
        「おう。」
        彼もまた、自分がいつもと違う事を、
        姿はともかく、同い年のこの少年に悟られまいと考えているのか、
        いつもと変わらぬ調子で答えてみせた。
        しかし、
        何気なく相手を振り返り、コナンは大きく、その目を見開く事となる。
        「お前、それっ・・・!!」
        「あん?」
        驚愕の表情で指された自分の右手を、
        平次は何の気なしに見やってぎょっとした。

        手のひらの中央、
        握り締めた爪の食い込みにより作られた、浅からぬ傷により、
        滴る程の血液が、褐色の肌を無軌道に流れていた。

        終わり


        詳しい説明なしで、訳わからんと思われる事を狙って書きましたが(何で。)、
        鳥取蜘蛛屋敷その後。
        本当は漫画で描きたかったけど、画面が男ばっかになるのがなあ・・・(画力がないと素直に言え。)。