<短期集中連載・いつか王子様が 1>
「今度の着メロ、白雪姫にしたんやけど、どうやろ?」
「あ、昨日、テレビでやっとったもんな?」
「うん、かわええ。ええと思うよ。」
昼食後、机を寄せてのとめどない会話の中、
友人の携帯から流れ出す音楽にしばし耳を傾ける。
周囲の雑音にかき消されながらも、軽快で幻想的な音楽は耳に楽しい。
「いつか王子様が・・・そんな訳ないって思いつつも、
一周回って、ちょっとええなぁって思わん?」
「えー、かぼちゃパンツに白タイツやで?」
いつか素敵な人が、という意味でなら憧れるが、
確かに、現代の日本にそんな格好の人間が現れたら、どうして良いかわからない。
「うーん、じゃあお姫様!! お姫様は憧れるやろ!?」
「うん!! あ、和葉!! 和葉似合いそう、お姫様!!」
「え? あたし!?」
友人二人のやり取りに、笑い声を返すばかりだった和葉は、
突然自分に話を振られて目を瞬いた。
「うん!! 何がええかな〜、眠り姫もええし、人魚姫もええし・・・。」
「えー、やっぱり白雪姫とちゃう? それか日本風に・・・。」
「ちょ、ちょお・・・。」
いくら何でも「お姫様が似合う」という話題は恥ずかしすぎる。分不相応だ。
そう考えて、和葉は友人達を制止しようとしたが、
「和葉がお姫様〜!? お前ら、目ん玉腐ってるんとちゃうか!?」
それより早く、その話題を制したのは、真横を通りかかった彼女の幼なじみ、
服部平次だった。
つづく
<短期集中連載・いつか王子様が 2>
「服部!! 突然何なんよ!! 失礼やろ!!」
あまりの意見に、和葉の友人が二人揃って席を立つ。
「失礼なのはお前らやろ、無茶苦茶言いよって・・・。
こいつのどこがお姫様やねん。」
「何言うとんの!? 和葉やから似合うって言うとるんやないの!!」
「アホか、こんな女が姫やったら、世の中に庶民がおらんようになるやんけ。」
「この・・・!!」
一触即発、と言った事態に、周囲の級友達も、何事かと視線を集める。
しかし、今日の騒ぎの中心は、服部平次と、遠山和葉・・・ではなく、
その友人二名である所が珍しい。
「あ・・・ほら、皆見とるし、二人共、中庭行こ、中庭。
あたし、お茶買いたいし。な?」
騒ぎを鎮圧する様に和葉が間に入り、平次と友人達とを引き離す。
いつもなら、真っ先に平次に食ってかかる所だが、話題が話題だけに強気になれない。
少しだけ、恨みがましい目を平次に向けると、友人達を引っ張って教室の外に向かった。
「わかった、ベルやわ。」
「せやね、美女と野獣。」
平次にだけ聞こえる様に、二人が意地悪くつぶやいて、教室を後にする。
「ふん。」
と小さくつぶやいて、平次は自分の席へと腰を下ろした。
・・・俺がオージサマなんてガラやないんやから、お前が合わせるしかないやんけ。
終わり
<当時の後書き>
ピギャー。
それだけの事であんな事言ったのか17歳!!
自分をわかってると言えばわかってるけど、痛い、痛すぎるよ服部君!!
ハナホン平次は下克上精神で、
王子様でなくとも、いつかお姫様を・・・と思っていると思うのですが
(逆にすると怖いですね、このタイトル。)、
何でしょう、いざ周囲に言われたら焦っちゃった☆ みたいな。
学校でか!! 昼休みにか!! 通りすがってか!!
それが多感な少年期というものなのです(今後も使えるぞ、この言い訳。)。
でも、平次君に取って、和葉ちゃんはいつでも、一人のお姫様なんですよv(誰なのー。)
ちなみにあたしが最大級の下克上で女を手にすると思う作品は、
まんが日本昔話の「タニシ長者」
田んぼのタニシが美しい人間の嫁を迎えるという・・・やばいってー!!
でもこのタニシがすげえ可愛かった。
そして、書き終えてから数日経って気づきましたが、
「小学校時代の学芸会の配役を決める時の話v」とかにすれば、
服部平次もああまでアホな高校生にはならなかったろうに・・・。
<たいやき>
「ったく、買い物一つ満足に出来んのか・・・。」
座卓の中央に置かれた物体を横目で眺めつつ、平次がため息まじりにつぶやく。
「しつこいで!! 電波悪うてそう聞こえたんやからしゃあないやろ!!」
ばんっと和葉が座卓を叩くと、その物体は、
それをかたどった物の本来の姿を思い出させるかの様に軽く飛び跳ねた。
たいやきである。
「・・・何でタコヤキがたいやきになんねん。
そんなら何か、正月に揚げるんはタイか、東京のあのガキは江戸川イナンか。」
「・・・・・・。」
性格が悪い、悪すぎる。
何故、電話で一方的に買って来いと言われた物に対して、ここまで言われねばならないのか。
「もう!! そんなに言うんなら食べんでええわ!!
せっかくお兄さんが一つおまけしてくれはったのに・・・。」
目を吊り上げて怒ると、和葉は二つの予定が三つになったたいやきを袋ごと引き寄
せ、一つを手に取った。
しかし、途端に黒い手が残りの二つを奪い去り、
驚く間もなく、和葉の目の前で二つのたいやきは、平次の胃の中へと消えた。
「な・・・。」
「甘・・・せやからタコヤキがええっちゅうに。
・・・おい、お茶。」
「なっ、何言うてんの!? せやから食べんでもええって言うたやん!!
だいたい、たいやきかて食べる癖に、何でそんなにタコヤキにこだわるんよ!!」
「・・・・・・。」
上手い反論が見つからず、平次はたいやきが喉につかえたふりをして、だんまりを決め込んだ。
少なくとも、和葉の行くタコヤキ屋にはいないのだ、
若い男の店員が。
終わり
<当時の後書き>
じゃあ最初から買い物なんか頼むな!!
大阪全土の若い男のいる店マップを作成して、危険店にはてめえが行け!!
ああ、また自分で自分の作品を台無しにする「狂気」を見せてしまったわ。
えーと、服部夫妻が出掛けて、
和葉は良かったらと服部の夕食を頼まれ、何が良いかと電話した所、
三時とか半端な時間だったので、間食としてタコヤキをリクエストされたと。
それ故に和葉は自分達の分しかたいやきを買わなかったと。
きっと夕飯は和葉お手製の大量のタコヤキねv
・・・書け、その辺も。
いや、その辺書いてると、普通の創作になっちゃうから。
駄目なのかよ。
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 1>
「そんなら、頑張ってな・・・。」
控えめにそう声をかけ、喧騒を背に歩き出しながら、
和葉は力なく、ノースリーブの肩を落とした。
大阪湾を豪華客船で優雅に周遊しながらのディナー。
そんなデートの予定が事件により潰れてしまったという若手の刑事から、
平次がタダでチケットを譲り受け・・・たのか、掠め取ったのかは定かではないが、
とにかく、そのチケットにより、今日は楽しい夜になるはずだったのだ。
例えそれが「行くんなら和葉も連れてけ言われた。」と、
いつものオマケ的扱いで誘われたのであったとしても。
けど・・・まさか・・・また・・・
事件が起こるなんてなぁ・・・・・・。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 2>
事件が起きたのはクルーズが始まってすぐの18時20分、
人気のない乗組員用の船室の廊下で、一人の女性が左肩を刺されて倒れていたという。
幸い、命に別状はなかった様だが、女性は意識を失ったまま、医務室で治療を受けている。
そして、西の名探偵はと言えば、無論、名乗りを上げ、その呼び名のままに任務を遂行中だ。
大きな騒ぎにはならなかったものの、与えられた個室で推理を巡らせる平次の元に、
不安な面持ちをした責任者達が外部と連絡を取りつつ、入れ替わり立ち替わり訪れる。
特に手伝える事はなさそうだったし、ここは邪魔にならない様にと、
和葉は個室を後にしたが、その肩は意識していても、下がって行くのを止められない。
事件が起きて予定が狂ってしまった事が悲しいと言うよりは、
そう考えてしまう、自分の子供っぽさが悲しかった。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 3>
被害者の人かて大変なんやし、平次かて頑張っとるんやから、
こんな顔しとったらあかんわ・・・。
元気を出す様に、船内からの重い扉を開け、甲板に出てみる。
今日は生憎の雨だったが、屋根付きのデッキで潮風を受ければ、幾分気持も変わるだろう。
「やめて下さい!!」
「え?」
乗客のほとんどはホールで行われているバイキング形式のディナーに参加している。
雨降りのデッキに人気はないと思っていたが、
見れば、二人の若い男がが一人の女性を間に挟み、しつこく誘いをかけている様だった。
「やめとき。」
躊躇する事なく言葉が出る。
男達は突然の介在に顔をしかめて振り返ったが、和葉の顔を見た途端、
表情をだらしなく一変させ、笑顔で側へと近づいて来た。
「かっわええ子やなぁ、丁度ええわ、男二人で暇しとってん。
あっちのお姉さんと、四人で一緒に遊ばへん?」
軽い口調でそう言いながら、一人が馴れ馴れしく和葉の腕を取った。
はずだった。
次の瞬間、決して小柄ではないその男の体は、音もなく、地面に倒れこんだ。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 4>
片手取り四方投げ。
そう、その技を解説出来る者は、女性も含めてその場にはいない。
あるのはただ呆然と見張られた、二組の瞳のみである。
「・・・こういう遊びで良かったら、なんぼでも付き合ったるけど、ちゃうやろ?
女の人にあんな声上げさせた時点で、あたしの中では犯罪者確定や。
これ以上、痛い目見たなかったら、さっさと帰り。」
静かな声がそう告げる。
それでなくとも気分転換の出来ていない今は機嫌が悪い。
「・・・・・・!!」
たっぷり十秒、ようやく状況を把握すると、男達は瞬く間に船内へと姿を消した。
もっとも、したたか腰を打ちつけた一人は、ほうほうの体であったが。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 5>
「ありがとうございます。・・・強いんですね。」
しばし呆然としていた様だが、男達にからまれていた女性が、
緊張を解いた表情で和葉に歩み寄り、頭を下げる。
「大丈夫? 何か、変な事されたりしとらん?」
「はい、大丈夫です。
ちょっとしつこかったから困っていただけで・・・。」
大阪のものではない言葉が敬語で発せられたが、
女性は和葉より、五歳は年上だろう。
シンプルですっきりとした服を身につけ、
ショートカットの良く似合う、健康的な顔立ちをしているが、
今はその表情が、気のせいではない程に青ざめている。
「けど、顔色があまり良くないみたいやけど・・・。」
眉をひそめて問い掛けると、
女性は少し目を見開いて、それから力なく微笑んでみせた。
「船内で事件があったの、ご存知ですか?」
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 6>
女性の名前は柏木弥生。
この船の副船長である恋人に招かれ、今夜のクルーズに参加したという。
それを聞いて、和葉はこの船に乗船した時の事を思い出した。
「副船長の天本と申します。
今は雨が降っていますが、夜には晴れますよ。
そしたら花火の打ち上げがありますからお楽しみに。」
そう、親切に教えてくれた青年。
整った顔立ちに優しそうな表情は、
蘭の高校にいた男前の校医に似てはいないかと平次に言ってみたのだが、
興味のなさそうな顔で流されてしまった。
大方、ディナーに並ぶ料理の事でも考えていたのだろう。
「刺された女性は、天本さんと知り合いで・・・。
もしかしたら以前、お付き合いしていたかもしれないんです・・・。」
「え・・・。」
乗船時の事を思い出していた和葉の耳に、
衝撃的な弥生の言葉が、雨音よりも静かに流れた。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 7>
恋人の事を考え、泣き出してしまいそうになる弥生を懸命に励まし、
あんな所に一人でいるよりは賑やかな場所にいた方が良いと船内に連れ戻すと、
和葉は一人、平次のこもっている個室へと足を早めた。
天本は事件と無関係だと信じつつも、瞳を曇らせてしまう、
弥生を安心させる情報を、平次の口から導き出したかった。
クルーズを楽しむ優雅な人々の合間を縫って廊下を急ぐ、
その腕を不意に取られ、和葉は目を見開いた。
「アホ!! 何しとんねん!!」
「平次・・・。何しとんの? 部屋におったんや・・・。」
相手が平次であった事に安堵しつつも、
個室からも事件現場からも離れたこんな場所に現れた事に驚いて問い掛ける。
「それはこっちの台詞や。部屋におんのかと思えば、いつの間にか消えとるし、
まだ犯人がうろついてるかもしれんのに、何しとんねん!!」
「それは・・・・・・ごめん・・・。」
慣れとは恐ろしいものだ。
殺人ではないと、高を括っていた気持ちが確かにある。
邪魔にならない様にという配慮があったのだが、それは口にせず、
和葉は素直に自分の行動を詫びた。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 8>
「別に、心配した訳やないけど、推理に集中出来んからな・・・。」
うつむく和葉に対し、平次が歯切れの悪い言葉を発する。
そんなの、わかっとるもん・・・。
反省心から、強く言い返す事も出来ず、和葉は瞳を落としたが、
推理という言葉に、平次を探していた理由を思い出し、ぱっと顔を上げた。
「せや平次!! 犯人の目星ついたん!?」
「はぁ? お前、何を聞いとんねん、人が集中出来んて・・・。」
「その、ちょっと聞きたいんやけど、あの副船長さん、事件と関係ない・・・よね?」
言いながら、弥生と知り合った経緯や、
天本が被害者の女性と懇意であったかもしれない事を先に告げるべきかと思ったが、
結論を急ぐあまり、そんな問い掛けだけが口をついて出てしまった。
途端、平次の顔から表情が消える。
「何やねん、それ。」
「え? せやから副船長さんが・・・。」
平次が声音を変えた事には気づかず、和葉は言葉を続けようとしたが、
途端、鋭い視線に射抜かれる。
「・・・お前が誰をどう心配しようが構わん。
けど、お前の個人的な感情で、俺の推理に口出して邪魔すんな。迷惑や。」
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 9>
雨が激しく窓を打つ。
天本はああ言ったが、本当に、夜になったら晴れるのだろうか。
心を占める事柄から感情をそらそうと、そんな事を考えながらも、和葉は唇を噛みしめた。
今のこの状況は拷問に近い。
冷たく響いた平次の言葉が、いまだに耳の奥から離れない。
あまりの事に驚いて、謝罪も、反論も、上手く口から出てはくれなかった。
そのまま、どこかへ行ってしまいたかったが、それは許されず、
平次が与えられた個室へと、腕を引いて連れ戻された。
責任者達と話し込む平次から出来るだけ離れた窓辺の椅子に座り、
大好きな、推理に集中する横顔から目を逸らし、馬鹿みたいに窓の外だけを見つめ続ける。
邪魔。迷惑。
西の名探偵に対して、一番したくない事をしてしまった。
あんな言い方はないと思ったし、自分にも事情はあったが、
続けて、事件に対する平次の集中力を欠く様な事をしてしまった事は事実なのだ。
「・・・では、すべてはあの女性の狂言だと?」
噛みしめた唇を解放し、ため息をつこうとした和葉の耳に、
驚愕した責任者達の声が響いた。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 10>
傷を負った魚がいる。
魚に傷を負わせて逃げるには、海草達の間を通らなければならない。
けれど、海草達は何も見ていない。
ならば、魚はどうして傷ついたのか。
それは、自分で岩場に体を打ち付けたから。
平次の出した、あまりにも簡単すぎる結論に、
関係者達はあっけに取られるばかりだったが、
ほどなくして、意識を回復した女性から事情を聞き、
それが、この船の関係者との男女間の諍いが高じての、
嫌がらせによる狂言だったという事が明らかになった。
「・・・良かったな。」
ばたばたと人々が行き来する中、
いまだ窓の外を見つめ続ける和葉に対し、
平次が面白くなさそうにそうつぶやいた。
何が・・・と、聞き返そうと和葉が口を開きかけた時、
副船長の天本と柏木弥生が、並んで部屋を訪れた。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 11>
被害者の女性が付き合っていたのは、
天本は言葉を濁したが、どうやらこの船の船長の様だった。
天本は、彼女と別れたい彼に頼まれ、何度か彼女と会った事があるらしく、
その事から、彼女との仲を誤解した弥生が、
和葉に迷惑をかけた事を二人揃って詫びた。
「そんなん、気にせんでもええのに・・・。
あたし、ただ話聞いただけやし・・・。」
本当なら、安心出来る情報を届けられるはずだったのだが、
それも出来なかったしと思いつつ、
真横の平次を盗み見ると、何故か呆然としている表情が目に入った。
「そんな事ないです。初対面のあなたに甘えて、愚痴をこぼしてしまったのに、
親身になって下さって、本当に救われました。」
弥生が丁寧な言葉を述べて頭を下げる。
続けて、事件を解決した西の名探偵にも二人揃って頭を下げると、
「色々ありましたが、引き続き、航海をお楽しみ下さい。」
副船長の顔で天本がそう言い、
二人は仲良く肩を並べて部屋から去って行った。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 12>
「そういう事やったんか・・・。」
嘆息を含んだつぶやきが平次の口から漏れる。
事件も一段落と言った所か、天本と弥生が去った後、
責任者達が部屋を出入りする事もなくなった。
「・・・事件終わったし、もう、行ってもええよね。」
先程同様に、平次の言葉の意味がわからなかったが、
事件が解決した事を思い出し、和葉は先刻は許されなかった行為を実行に移した。
うつむいたまま、抑揚のない声でつぶやくと共に、部屋を出る。
後方から、平次の声が響いたが、構わずに全速力で駆け出した。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 13>
たどり着いたのは先程と同じ甲板。足が慣れてしまっているのかもしれない。
弥生がいた手すりの脇に備え付けてあるベンチに腰掛け、
屋根の下から、いまだ降り止まぬ海への雨を眺める。
弥生にはこんな所に一人でいない方が良いと言ったのに、
なるほど、塞ぎこんだ気分に、一人になれるこの場所はありがたい。
気分が回復するかどうかはともかくとして。
「和葉。」
先程よりは小降りになった雨を、肘をつきながら見つめる背に、遠慮がちな声が響く。
思わず肩が震えてしまったが、振り向くまいと決め込んだ。
少し困った様な平次の呼吸。もう、怒ってはいないのだろうか。
「その・・・さっきはすまんかった・・・。」
平次の言葉に目を見開く。
あんな言い方をした後で、平次がこんな風に謝るなんて。
つづく
<短期集中連載・雨の音 雨の匂い 14>
「お前が、あいつの事、その・・・いや、ちょお苛々しとって・・・。」
言葉の意味が良くわからないが、とにかく、事件の事で苛々していたのだろう。
そこにうるさい事を言われれば、怒るのは当たり前だ。
「あんな事、思っとらんから・・・。」
邪魔とも、迷惑とも、思われていないのなら良い。
自分も悪かったのだから。
「なぁ、おい、ええ加減、機嫌直せや・・・。」
いつもより情けなく響く平次の声に、目の淵を熱くしながら少し笑った。
この雨がやんだら振り向く。
花火が上がったら謝る。
そして事件の話を詳しく聞きながら、
生き生きとした平次の顔を見つめ、とびきりの笑顔を見せる。
もうすぐ、雨上がり。
終わり
<当時の後書き>
雨、やまなかったりしてな!!(出たぞ、台無しコメント。)
日記連載で推理ものというチャレンゲっぷりですが、
創作で普通に書いたらもっと描写は細かくなくちゃいけないし、
何より、被害者の狂言ってオイって感じなので、
やはり甘えられる日記連載がお手頃かと思います。
普通の創作にまったく甘えがないのかと言えばぶつぶつ。
今回、一番書きたかったのはヘタレ謝罪平次!!
硬派男子を書くのが好きとはいえ、
ハンホン平次は嫉妬から和葉に酷い事を言う割に、
謝ってない事が多いので、今回はヘタれた謝罪をさせようかなと。
しかし、理由はきちんと言わない、謝り方も情けない、ダブルヘッタラーでどうしましょ。
まぁ、更なるメインは、悲しそうに海に降る雨を見つめる、和葉の美しさなんですけどね。
ちなみに、何となくすぎる描写ではありますが、
天本と弥生のモデルは、原作の新出先生とひかるさん。
適当なキャラに新出先生を応用するの、これにて三回目。
<当時の後書き>
花屋堂がHP開設当初からお世話になっている、
FQ界の大御所、おおたじゅんこさんに、
平和の挿し絵を描いて頂いたという図々しい話は仲間内では有名ですが
(DC創作「一品追加」参照。)、
じゅんこさんは納得が行っていなかったらしく(あんなに素敵な絵なのに。)、
「いつかリベンジさせてくださいね。今度はぜひ、文章先行で!」と・・・。
「かしこまりました、何かリクエストはありますか?」
素早く答えるあたしがいました。
この時点でもう、蝶は網にかかったも同然です(怖ぇよ。)。
突如リクエストを要求され、それでも返事を返して下さったしっぽのママン。
・「たいやき」
・「雨の音 雨の匂い」
・「いつか王子様が」
この中から出来る物を、無理はせずに・・・との事だったのですが、
「わかりました、全部出来ます!! 天才ですから、あたし!!」
・・・馬鹿だろ、それ。
そうして日記に創作をアップする度、届けられる素敵な挿し絵・・・。
本物の天才に出会いました・・・。
じゅんこさんが天才だなんて、とっくに知ってたけど、何でこんなに平和描くの上手!?
あたしに隠れて五年くらい平和のファンサイトとかやってない!?
ああもう、和葉の美しさと、服部の色気ったら!!
挿し絵が届く度、悶絶していたあたしがいます。
観たか、聞いたか、王子様は来たか、たいやき食ったか、雨は降ったか!?(落ち着け。)
後日談。
あたしが日記に創作を書くのと同時進行で、
じゅんこさんの日記には挿し絵が描かれていた訳ですが、
ジャンルも違うし、この遠距離コラボに気づく人は少ないかなぁと思っていたら、
チラリ、ホラリと報告があり、最終的にはライヴで複数の人間に、
「影に絶対花屋堂がいるって思った!!」
じゅんこさんの平和の影に花屋堂あり。
気配は消せても血の匂いまでは消せないってやつでしょうか(何言ってんだ。)。
「お前はこの中にいる・・・俺にはわかってるんだぜ? 怪盗キッド!!」
みたいな。
それにしても楽しかったなぁ、「お題」・・・。
多分、百個出されてたら、百個とも書いてた・・・(本当かよ。)。
香華さんのお題にひいさんが答えるという、
FQゴールデンコンビのコラボが素晴らしく、
あたしも自分に出来そうなお題を探したのですが、
なかった!!
「ヤキモチと鈍感好きに50のお題」とか、
「平和四コマ描きさんに100の指令」とか、
どこにもなかった!!(当たり前だ。)
そんな飢えた日々を送っていたので、
じゅんこさんのお題(のつもりではない。)は本当に嬉しかった・・・。
<現在の後書き>
今思い出しても、すごーく楽しかった。
創作書くと挿し絵が出来上がるなんて、恐ろしく贅沢な出来事ではないでしょうか。