<短期集中連載・恋のから回り 1>
        中世。
        この一言ですべてが片付くと思っている訳ではありませんが中世。
        森と泉に囲まれた、青い城のそびえる・・・
        年齢が判明しそうな文章ですね、
        とにかくそんな、美しい国がありました。
        国の名前はベイカーランド。
        ・・・この名前に萎えて、
        作品自体を三年前に封印したのはここだけの秘密です。
        さて、この国には将来を有望視された一人の王子がおりました。
        名前は新一。
        容姿端麗・頭脳明晰、声は山口勝平である彼は、
        今日も王である優作の命を受け、
        早朝、王都近隣の視察を、愛馬ハルアララにまたがり行っておりました。
        何て適当な文章でしょう。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 2>
        無事に視察を終え、
        王都の入り口まで数キロという森に差し掛かった時、
        彼の周囲を五人の男達が取り囲みました。
        いずれも人相風体の悪い輩で、
        身なりの良い新一を見て、下卑た笑いを浮かべています。
        「うひょーう、これはこれは金持ちそうなお坊ちゃんのお通りだ〜。いーっひっひ。」
        悪役を書く才能に溢れていますね花屋堂。
        「何の用だ!!」
        「用も何も、お坊ちゃんが身に付けている物と、
        お小遣いを置いて行ってくれればそれで良いんだよ。」
        毅然と尋ねる新一に対し、男達は悪びれもせず、そんな事をのたまいました。
        「・・・・・・。」
        新一は足には自信がありましたから、
        こんな男達を蹴散らす事は簡単でしたが、
        その間、ハルアララが狙われる事を考えると、心に戸惑いが走ります。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 3>
        新一が眉をひそめ、次の行動を思案したその時です。
        「はぁぁぁぁぁっっ!!」
        一陣の風と共に、何者かが木々の合間をぬって現れました。
        「なっ・・・。」
        その正体が何であるか、つきとめる間もなく、
        その何者かはあっと言う間に五人の男達を叩きのめし、
        展開上、あっと言う間に叩きのめし、
        ハルアララごと、新一を森の奥の泉へと誘導しました。
        「ここまで来れば大丈夫・・・。」
        大丈夫も何も、男達は当分起き上がれない程の痛手を負っていたのが、
        逃げ去る遠目にも確認出来ましたが、
        予想外の甘く優しい声に、新一ははっとしてハルアララから降り、
        我が身を救った救世主と向き合いました。
        泉を取り巻く朝霧の中、二人の瞳が出会います。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 4>
        声と同様に予想外な事に、新一の眼前に現れたのは、
        彼とそう変わらぬ歳の、一人の少女でした。
        「・・・・・・。」
        驚きと、もう一つ別の感情が相俟って、
        新一は呆然と少女を見つめました。
        ひどく非凡な、とても美しく可憐な容貌の少女でした。
        髪も、肌も、瞳も、唇も、
        新一が最上と感じる物が集まって、少女を形成しているかの様です。
        回りくどい言い方をしていますが、つまる所、好みのタイプだったのです。
        「王都から外れたこの辺りは、あまりガラの良くない人達もいるから、
        気をつけなくちゃ駄目よ。」
        にっこりと笑って少女が言います。
        しかし、まるで子供に言い聞かせる様なその言い方に、
        新一の頭に血が上りました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 5>
        「べっ、別に馬に乗ってなきゃ、あんな奴らにやられたりしねぇよ!!」
        「ふぅん・・・。」
        発せられる大声に対し、少しからかう様に少女が笑い、
        なおも言い募ろうとして、新一は自分の行動にはっとしました。
        立場上、常に冷静さを前面に出す事を心がけている自分が、
        初対面の相手にこんなにもあっさりと、
        本性をさらけ出してしまった事に驚いたのです。
        「・・・おめぇこそ、あんなに乱暴だと、嫁の貰い手がなくなるぜ?」
        自分のペースを取り戻すかの様に、
        新一は少女に向かい、意地悪な笑みを投げ掛けました。
        「なっ、何よ、せっかく助けてあげたのに!!」
        少女は頬をふくらませましたが、
        次の瞬間、二人は視線を合わせると、どちらからともなく笑い合いました。
        笑えるか? 普通。
        恋とは不思議なものなのです。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 6>
        「・・・で、好みの女とせっかくええ感じになったのに、
        名前も聞かず帰って来たっちゅうんか。」
        城の一角、王子の私室にて、一人の少年があきれた様に口を開きます。
        少年の名は平次。
        城の近衛隊長として一ヶ月前に西の都より招かれた平蔵の一人息子で、
        彼自身もその腕を認められ、王子の側近を勤めておりました。
        同い年で、互いにこだわらない性格という事もあり、
        二人はすぐに身分を越え、何でも話せる仲になっていました。
        「うるせえ!! 城の周辺の森におかしな連中がいたって報告してんのに、
        いつの間にそんな話になってんだよ!!」
        ・・・何でも話せる仲になっていました。
        「そうかー? 要約したらそういう事やろ?」
        「・・・別に、好みだなんて言ってねえよ。」
        口ではそう言いつつも、
        新一は内心、平次の鋭さに舌を巻いていました。
        森の中で短い一時を過ごした少女、
        彼女の容姿だけでなく、言葉を交わした瞬間の、笑い合った瞬間の、
        今までに感じた事のない様な胸の温かさが、
        体中に甘い支配を行き渡らせていたのです。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 7>
        「よっしゃ、俺に任せとけ!!
        すぐにその女見つけ出して来たるわ!!」
        妙に張り切る平次をさらりと無視して、
        新一は一人、バルコニーへと足を進めました。
        あの後、用があるからと急いで王都の方へと走って行ってしまった少女、
        出会いこそ、森の中ではありましたが、
        王都に住むとなればそう身分は低くはないはずで、
        着ている衣服も、派手さこそないものの、
        仕立のしっかりとした、品の良い物でした。
        近く、城で春の大祭がある・・・。
        それは王都で暮らす若者達を招き、
        春の訪れと共に、国の成長と若者の成長を祝う祭りでありました。
        あの少女がこの祭りに来る様ならば、
        再び巡り会う事もあるかもしれない・・・。
        後方で騒ぐ平次の事はまったく気にかけず、
        新一は一人、そんな事を思いました。
        花の香りを乗せた優しい風が、彼の前髪をふわりと撫でて行きます。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 8>
        国の大臣を務める英理の所有する屋敷にある、
        六本木とはまた違う、毛利庭園。
        こちらでは英理の娘の蘭が、友人の和葉を招き、
        ちょっとしたティーパーティーを楽しんでおりました。
        ちなみに父である小五郎は無職です。探偵って変換しにくくてな。
        「そんなら、名前も聞かんと、別れて来てしもたん!?」
        和葉がすっとんきょうな声を上げます。
        それに対し、困った様に微笑む蘭は、
        誰あろう、新一が朝出会った少女でありました。
        「だって・・・別に聞かれてもいないのにそんなの恥ずかしいし、
        それに、お作法の授業の時間が近づいていたから・・・。」
        「けど、感じのええ人やったんやろ?」
        「うん・・・感じが良いって言うか、一緒にいて落ち着けるって言うか・・・。」
        少し、赤くなりながら話す蘭に、和葉の顔が輝きます。
        「めっちゃモテるのに男の子に興味示さへん蘭ちゃんがそんな事言うやなんて、
        それはきっと運命の人に違いないわ!!」
        乙女の発想はいつでも唐突です。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 9>
        「運命の人だなんてそんな・・・きっと私の事、乱暴者だって思ってるよ・・・。」
        「何言うとんの? そんなん、本人に確かめなわからんやん!!
        よっしゃ!! その人、あたしが見つけ出したる!!」
        「えっ・・・。」
        唐突な意見から、一向に失速する事のない和葉の勢いに、蘭が目を見開きます。
        「大丈夫、蘭ちゃんの名前は出さへんし、上手く調べるから!!」
        「でも和葉ちゃん、そんな・・・。」
        「あたしな!!」
        戸惑う蘭の手を、突如として和葉が握りしめます。
        「知り合いのおばちゃんが旦那さんの赴任で王都に来る事になって、
        何でかあたしの事も行儀作法を身につける機会や言うて連れて来てくれたんやけど、
        こっちに友達とかおらんやろ? せやから最初、めっちゃ心細かってん。」
        和葉が一ヶ月前の事に思いを巡らせます。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 10>
        一ヶ月前、西の都の近衛隊長であった平蔵が王都に呼び寄せられた事により、
        副隊長であった父が隊長に昇格した和葉は、そのまま西の都で暮らすはずでした。
        しかし、平蔵の妻である静華が、
        王都で王女自らが行う貴族の娘への行儀作法を身につける良い機会だと周囲を説得し、
        和葉も王都へやって来る事となったのです。
        静華の気持ちが嬉しく、平蔵一家を慕う気持と、
        もう一つ、秘めたる感情が手伝って、和葉は王都行きを決意しましたが、
        やはり家族や住み慣れた土地と離れる事は寂しく、新生活への不安もありました。
        「けどな、そんな時、初めて行ったお作法の授業で、蘭ちゃんが話しかけてくれたやろ?」
        優しく声をかけてくれた、春の女神の様な蘭の微笑みを、和葉は今でも憶えています。
        「あれから他の子達とも打ち解けて、今は皆に仲良くして貰て・・・
        とにかく、あたし、すっごく嬉しかったんよ。」
        自分がそんなに大した事をしたとは思っていなかった蘭は、
        和葉の言葉に、ただひたすら驚いた表情を浮かべていました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 11>
        「せやから・・・。」
        一息に話し、和葉が真剣な表情で蘭の顔を見つめます。
        「何か、蘭ちゃんの役に立てる事があったら頑張りたいなぁって・・・あかん?」
        ハナホン和葉秘技「無意識の上目使いお願い」が出ました。
        恐ろしきかな、この技は男女共に有効です。
        「ありがとう、和葉ちゃん・・・。
        じゃあ・・・お願いしちゃおうかな。」
        蘭もころりと陥落しました。
        服部平次に至っては、鼻からスパゲティを食べる程度の事は楽にやってのける事でしょう。
        「その代わり、絶対に危ない事はしないでね。」
        「せえへんよ、ただの人探しやもん。
        よっしゃ!! 頑張るでーーー!!」
        満面の笑みを浮かべて喜ぶ和葉に、少し困った様にしつつも、蘭も微笑みます。
        平次と新一と、何と違う事でしょう。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 12>
        ・・・遅い。
        屋敷の居間にて、平次は苛々とした表情で鼻から息を吐き出しました。
        周囲では、使用人達がおろおろとした表情を浮かべています。
        理由は、平次は決して口には出しませんが、一目瞭然、
        この屋敷でお預かりしている大切なお嬢様、和葉の帰りが遅い為です。
        朝から行儀作法の授業に出掛け、
        その後、友人の蘭の家のお茶会に出席するというのが今日の和葉の予定でしたが、
        それでも、平次が帰宅する17時前には屋敷に戻っているはずで、
        時刻はすでに18時を過ぎようとしていました。
        「そない怒らんかて、和葉ちゃんかて遅なる時もあるやろ。」
        脅える使用人達の様子を見かねて、静華が呆れた声を上げます。
        「な、何言うとんねん、別にあいつの事なんて考えとらんわ!!」
        「・・・せやねぇ、和葉ちゃんが素敵な人と出掛けていようと、
        あんたには関係ない事やもんなぁ?」
        あまりにもわかりやすすぎる我が子の反応が面白くもありましたが、
        一ヶ月前、和葉と離れさせぬよう、尽力した自分の苦労を知ってか知らずか、
        いまだ幼なじみという関係を続ける平次にいささか業を煮やし、
        静華は軽やかに、そんな言葉を発しました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 13>
        不吉な言葉を残し、静華が居間から立ち去るのを確認すると、
        平次はますます機嫌を悪化させ、眉間のシワを深めました。
        素敵な人と出掛ける・・・やと?
        それを心配しとるっちゅーんじゃ、あのクソババ!!
        一ヶ月前、母の尽力に対し、口にこそ出さなかったものの、
        多大なる感謝をした事も忘れ、平次は胸中で最大級の悪態を吐きました。
        父の赴任により、和葉と離れ離れになると知った時は、
        それこそ父親に怪我でもして貰うかと、物騒な事を考えた平次でしたが、
        和葉を気に入る母の発案により、
        「西の都の近衛隊長襲撃計画、いやそれで和葉の親父が繰り上げ赴任したらかなわんから、
        西の都近衛副隊長も襲撃しとくか、こら結構な仕事やで計画」は闇に葬り去られました。
        しかし、和葉が一緒に王都に来る事で、新たな心配が持ち上がったのです。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 14>
        西の都では、近衛隊長の息子と副隊長の娘である平次と和葉を知らぬ者は少なく、
        それ故か、互いがただの幼なじみだと言い張っていても、
        表立って和葉に言い寄る輩は少なく、
        おせっかいな友人達も、絶えずその目を光らせてくれている様でした。
        しかし、まったくと言って良い程知り合いのいない王都では、
        いつ和葉に言い寄る人間がいるかわからないのです。
        その心配は、剣の腕を買われ、王子の側近となり、
        和葉と共に過ごす時間が少なくなった事から、ますます高まって行くばかりでした。
        新一の側近はやりがいのある仕事ではありましたが、
        今日の様に、帰宅後、和葉が姿を見せないだけで、平次の機嫌は悪くなって行くのでした。
        今日かて、帰ったら工藤の女探すのに付き合わせよ思ったのに・・・。
        工藤とは、平次が使う新一の愛称で、更に新一は平次の事を服部と呼びますが、
        これは別に特別な関係故のダーリン・ハニーの様な呼び名ではありません。
        何となく、全員名前だけで登場させてしまったので、時としてこんな落とし穴があります。
        前にもありましたねこんなネタ。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 15>
        「平次様・・・。」
        「帰ったんか!!」
        「い、いえ、お客様がお見えです。」
        遠慮がちに声をかける使用人に、思わず大声を上げてしまった平次は、
        返された答えに肩透かしをくらい、仏頂面を浮かべつつも玄関へと向かいました。
        玄関には、王都から外部へ出る裏門の門番を勤める少年が二人、
        所在なさそうな顔をして立っていました。
        「何やお前ら、どないしてん。」
        城に勤める者として、少年達とは顔見知りではありましたが、
        予想外の来客に、平次は仏頂面を解いて尋ねました。
        少年達は平次とそう変わらぬ歳ではありましたが、
        あっと言う間に王子の側近となった平次の剣の腕を噂に聞いておりましたから、
        やや萎縮して、互いをせっつく様にして話し出しました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 16>
        「あの・・・お耳に入れたい事が・・・。」
        「何や、言うてみ。」
        「先程、こちらのお屋敷の和葉様が私共の所にいらっしゃいまして・・・。」
        「・・・和葉が? その前に自分ら、和葉の事知っとんのか?」
        予想外な客からの、予想外な話題に、平次の眉が動きます。
        「そりゃあもう!! あのお美しさですから衛兵達の間でも評判で・・し・・て・・・・。」
        すべてを言い終わらぬ内に、少年達の表情が凍りつきました。
        眼前の男の表情が世にも恐ろしい変化を遂げた為です。
        せやから一人で歩かすの嫌なんじゃ・・・っ!!
        「・・・それで? 続けろや。」
        話の続きが気になりましたから、
        内心とは裏腹に、何とか平静を装いつつ、平次は少年達に促しました。
        「は、はいっ!! その・・・和葉様がおっしゃられるには、
        今朝方、近隣の森から裏門に入って来た男性はいないかとの事で・・・。」
        「何やて?」
        平次の表情が変わります。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 17>
        「朝方はそう出入りする人間もおりませんが、
        今朝は一人の商人と・・・新一王子が裏門より戻られた事をお伝えしました。」
        「・・・・・・。」
        「我々もつい軽はずみに王子の名を口に出してしまったのですが、
        その後、和葉様はこの事は誰にも言わないで欲しいとおっしゃられまして・・・。」
        「・・・不安になって、俺の耳に入れに来たっちゅう訳か。」
        「は、はい!!」
        多少、鼻の下を伸ばしていたと考えられなくもありませんが、
        気さくに王子の名を出した後、口止めをされたのでは脅えもするでしょう、
        騒ぎにならないよう、同じ屋敷に住む平次の判断を仰ぎに来た少年達の考えを汲み、
        平次は安心させる様に笑顔を作りました。
        「大丈夫や、今朝は西の都から客が来る予定でな、多分、その事を聞きたかったんやろ。」
        「何だ、そうだったんですか。」
        「遅れて明日になるみたいやけど、懇意にしてたおっさんやから待ち遠しくて聞きに行って、
        恥ずかしいから口止めしたんやろ。いや、騒がせてすまんかったな。」
        口からでまかせを流し出し、王子は無関係とする事で少年達を安心させ、
        平次は彼らを帰宅させました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 18>
        一人になった平次は、少年達の話と、新一の話を照らし合わせて考えました。
        朝方、近隣の森から裏門に入った男について尋ねた和葉・・・。
        朝方、近隣の森で少女に助けられたと言う新一・・・。
        それはつまり・・・。
        「ただいま〜。」
        真剣な、平次の考えを遮る様に、帰宅を告げる、和葉ののん気な声が玄関先から響き
        ます。
        「・・・こないな時間までどこ行ってたんや。」
        心にある考えにより、居間に入って来た和葉に対する平次の声は、自分が思う以上に静かなものでした。
        「あ、平次、ごめんな、遅なってしもって・・・。
        ちょお用事があったもんやから・・・。」
        子供ではないにも関わらず、王都に来てからというもの、妙に厳しくなった平次に対し、
        いつもなら、何事か言い返す和葉でしたが、今日はやけに上機嫌に、遅い帰宅を詫びました。
        その様子に、平次の胸に浮かんだ不安が増して行きます。
        しかし和葉はそんな平次の様子に気づかずに、
        笑顔を浮かべたまま、居間のソファに座る平次の横へと腰掛けました。
        「あんな、平次、聞きたい事があるんやけど・・・。」
        身を寄せて、そんな事を言い出す和葉に、
        いつもの平次であったなら、国の最高機密も話していた事でしょう。
        しかし、続けざまに和葉が持ち出した問い掛けに、
        平次は半ば予想はしていたものの、危うく白目をむきかけました。
        「この国の王子様ってどんな人?」
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 19>
        「なっ、なっ、なっ、何でやねん!!」
        「どないしたん? 変な顔して・・・。」
        目に見えて動揺する平次に、和葉が首を傾げます。
        「どないもこないも、お前、今までそんな事聞かなかったやないか!!」
        「え・・・あの、その、ちょっと興味が出て来たんよ。」
        興味!!
        ほんのりと顔を赤らめて、そんな事を言い出す和葉に対し、平次は絶句しました。
        朝方、近隣の森から裏門に入った男について尋ねた和葉・・・。
        朝方、近隣の森で少女に助けられたと言う新一・・・。
        新一を助けたのは、腕が立ち、美しいが気の強い少女だという事が、彼の話から伺えました。
        今でこそ王女直々の行儀作法を学んでいるものの、
        西の都にいる頃は武術も学び、かなりの腕を持つ和葉です。
        そして容姿に性格・・・。
        無意識の内に思考から除外していたものの、何と和葉に当てはまる条件なのでしょう。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 20>
        「平次はずっと側に仕えてるんやろ? その・・・性格とかええ人なん?」
        思考を走らせる平次には気づかずに、和葉が問い掛けて来ます。
        新一を探し、新一の事を尋ねる和葉。
        これはつまり、新一が和葉に好意を持った様に、
        和葉もまた、新一に好意を持ったという事なのでしょうか。
        つまりは相思相愛・・・。
        「んな訳あるかぁぁぁっっ!!」
        「わっ!!」
        勢い良く、平次が立ち上がります。
        「な、何やの、もう!!」
        突然立ち上がり大声を上げる平次に、和葉が憮然とします。
        「和葉・・・工藤がどんな奴か教えたるわ。」
        「う、うん・・・。」
        平次はそのまま、居間から出て行きかけましたが、
        突如として振り向き、冷えた目でそう告げました。
        平次の行動の意味がわからないまでも、和葉が素直に頷きます。
        「あいつは・・・水虫や・・・。」
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 21>
        だあああっ!! もっと性格が悪いとか女とっかえひっかえやとか借金があるとか
        変態やとかゴミの分別が出来んとかチンコが小さいとか色々言うたれば良かったぁぁぁっ!!
        咄嗟にあんな嘘しか出て来んなんて、どうしてこう、育ちがええんや俺!!
        部屋に戻った平次が頭を抱えて激しく後悔します。伏せ字くらい使えよてめえ。
        このままでは・・・。
        王子と、女王が直々に礼儀作法を教える身分の娘、
        決して周囲の反対を受ける縁組ではないでしょう。
        リンゴーンと、平次の頭に教会の鐘が鳴り響きます。ライスシャワーがパラパラー。
        「サンキュー服部、お前のおかげで和葉ちゃんに出会えちゃったぜ。」
        「ありがとな平次、あたし、水虫なんかに負けへんから・・・!!」
        「だああああああっっ!!」
        ハナホン名物、妄想平次の降臨です。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 22>
        「ええっ!? 王子様!?」
        翌日、行儀作法の授業が終了した教室にて、
        昨日の聞き込みによる成果を打ち明ける和葉に、蘭が目を見開きます。
        「せや、蘭ちゃんが野苺を摘みに行ったあの森から、
        裏門に戻って来た男の人がおらんかったかか門番の子達に聞いて、
        それらしい人が王子様やっちゅう情報を得たから、
        今度は城の門番の子達に裏付け取ったから間違いないで!!
        王子様、昨日は王都の近隣の視察をしてたんやて!!」
        無意識の内に門番という門番を惑わし、情報を得る、門番キラーの和葉でありました。
        「そう言えば・・・遠くから拝見したお姿にどこか似ていた様な・・・。」
        よくよく考えたら王都で暮らしながら王子の顔を知らねえってのにも無理があるなと、
        今更ながらに気づいたあたしです。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 23>
        「けど・・・相手がそんな方じゃ、もうお会いする事もないわね・・・。」
        蘭が寂しそうにつぶやきます。
        朝の森で出会った、何故か心が落ち着く少年、
        彼にもう一度会いたいという気持は、時が経つごとに心の中で大きくなっていたのです。
        「何言うとんの!? 王女様直々のこの教室で一番成績が良くて、
        王女様にも気に入られとる蘭ちゃんなら、
        お妃様になるのかて夢やないって、前に皆が言うてたやないの!!」
        「和葉ちゃん、そんな・・・。」
        和葉の話は一足飛びです。
        「それに、会う機会やったら、明後日には城で春の大祭があるやろ?
        ここでなら、また王子様と会う事もあるんやないかな?」
        「春の大祭・・・。」
        王都で暮らす若者達が招かれる、城でのパーティ、
        今まではどこか気後れして、出席を控えていた蘭でしたが、
        和葉の言葉に背中を押された様な気持ちになり、
        近く行われる祭りに対し、思いを馳せてみるのでした。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 24>
        「・・・ほんまは、平次が王子様の側近やから、
        色々聞いたり、協力して貰たらええんやけど、
        なーんか、おかしな事言いよるし、やけに不機嫌やし、全然頼りにならんねん。」
        「平次って、和葉ちゃんがいるお家の人よね? おかしな事って?」
        まだ会った事のない少年の情報に対し、蘭が首を傾けます。
        「うん、王子が・・・あ−、それはええねん。」
        何故か顔を赤らめて言葉を濁し、和葉は窓辺へと近寄りました。
        「おまけに・・・あ〜、やっぱりまだおるわ。」
        「どうしたの?」
        「お付きの人。何や、授業が終わったら真っ直ぐ帰れって平次が言い付けてな・・・。」
        窓の下で待つ、屋敷の使用人を見下ろし、和葉が眉を下げます。
        和葉の授業の行き帰りをしっかり見届けるよう、平次から言い使った従者でした。
        「・・・昨日、私の事で和葉ちゃんが遅くなったからかも・・・ごめんね?」
        「蘭ちゃんのせいやないって。
        平次、こっちに来てからやたらと厳しなってな、何考えてんのかさっはりわからんわ。」
        親の心子知らずならぬ、幼なじみの心幼なじみ知らず、何とも語呂の悪い状況です。
        「まぁ、あたしもお世話になっとる身やし、平次の顔立ててしばらくは大人しくしとるけど、
        春の大祭には一緒に行こうな? そんで王子様に会お!!」
        「うん・・・。ありがとう、和葉ちゃん。」
        あまり大それた事は考えていない蘭でしたが、和葉の気持が嬉しくて、
        ふわりと花が開く様な、たおやかな笑みを返しました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 25>
        さて、春の大祭当日、
        静華が用意してくれた淡い桜色のドレスを着て、和葉は意気揚々と出掛けようとしました。
        しかし、和葉の部屋のドアの前に、何か重い物が積み重ねられているらしく、
        どんなに頑張ってもドアは開きません。
        「ちょっ・・・何やの!?」
        「アホ、騒ぐな、今日は家にじっとしとれ!!」
        叫ぶ和葉に対し、ドアの外で家具を積み重ねつつ、平次が怒鳴ります。
        「平次!? あんた何考えてんの!? あたし出掛けるんよ!!」
        「行かせへん・・・っ!!」
        ああ、何か結構やばい。
        嫉妬の前にはブロンズ像も軽い物です。
        「王子様に会わなあかんのに・・・。」という和葉のつぶやきに対し、
        「やっぱりそうなんかーーーっ!!」
        と叫ぶと、平次は和葉の部屋の前に完全に家具を積み上げ、
        使用人達に今日一日、和葉を家から出さない様に言いつけると、
        自分は王子の側近としての勤めを果たす為、春の大祭へと出掛けて行きました。
        そこまでするか服部平次。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 26>
        「もう・・・何なん・・・っ!!」
        最近、平次の行動がまったく読めなくなっていた和葉でしたが、本日は極まれりです。
        しばらくドアを叩いておりましたが、
        音がまったく抜けない事から、障害物の多さを絶望視すると、
        涙声になりながら窓辺へと向かいました。
        とはいえ和葉の部屋は三階です。
        どうしたものかと窓から下を見下ろした時、思いがけない光景が目に入りました。
        庭先に、和葉を迎えに来たらしき、綺麗な空色のドレスを来た蘭がたたずみ、
        その蘭に対し、屋敷の中から現れた平次が、何事か懸命に言い募っています。
        そうして、しばらくして、平次が蘭の肩を押す様にして、
        二人は揃って屋敷から出て行きました。
        「・・・・・・。」
        和葉の顔が真っ青になります。
        そしてこんなに長引く事になるなんて、あたしの顔も真っ青です。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 27>
        平次・・・蘭ちゃんと・・・どういう事なん?
        そこで和葉はまだ蘭と知り合ったばかりの頃、
        今日の様に家まで迎えに来てくれた蘭の姿を見て、
        「はー、ずいぶん綺麗な姉ちゃんやなー。お前と違て。」
        と、平次が言っていたのを思い出しました。
        あの時は、自分への悪態に腹を立てつつも、何を当たり前の事をと思ったものですが、
        もしかすると平次はあの時から・・・。
        今日・・・あたしを閉じ込めたんは、蘭ちゃんに上手い事言うて、一緒に出掛けたかったから・・・?
        勘違い男VS思い込み女、何て似合いのカップルなのでしょう。
        そう考えた途端、和葉はものすごい勢いで、ベッドの上のシーツを切り裂きました。
        別に嫉妬に狂っての行為ではなく、窓から地上に降りる為の梯子を作る為です。
        平次のアホ・・・ッ!!
        だいたい、蘭ちゃんには好きな人がおるんやから・・・っ!!
        唇をかみしめながら、ドレス姿で梯子をつたい、和葉は城までの道を急ぎました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 28>
        「急に熱だなんて、和葉ちゃん大丈夫かな・・・。」
        「いやぁ、あいつは昔から楽しみな事があるとよう熱出すねん。
        そんなん気にせんと、姉ちゃんは楽しんで来るとええわ。」
        春の暖かい日差しを受け、花やごちそうで溢れかえった城の中庭、
        陽気にダンスを踊る若者達の中で、蘭は一人、浮かない顔をしていましたが、
        平次は嘘八百を並べ立て、安心させる様にその肩を叩きます。
        「いっけぇぇぇ!!」
        その瞬間、江戸川がキック力増強シューズを使う時の高山の真似をする山口の声が響くと共に、
        平次の延髄にずばりハイキックが炸裂しました。
        「ぐっはぁぁぁぁ!!」
        勢い良く、平次が床へと転がります。
        クラクラする頭を抱え、何事かと見上げれば、そこにいるのは彼の主君でありました。
        「なっ・・・何考えとんねん工藤!!」
        「・・・すまねえ服部、お前がこいつといるのを見たら無償に腹が立って・・・。」
        「そんなんでいきなり延髄切りかますんかいおのれは!!」
        何とか起き上がり、平次は抗議の声を上げましたが、
        次の瞬間、眼前の光景に動きが止まりました。
        新一と蘭が、何とも幸せそうな表情でお互いの姿をその瞳に映し合っていたのです。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 29>
        「また・・・会えるなんて・・・。」
        「俺は確信してたぜ?」
        「ちょお待てや!! お前何言うとんねん!!」
        「・・・・・・。」
        落ち着きのない平次の声にラヴへと流れる空気を乱され、新一の眉間にシワが寄ります。
        「平次ーーーっっ!!」
        そこへ、息を切らせた和葉が飛び込んで来ました。
        「なっ、かっ、和葉!! アホ!! こっち来んな!!」
        和葉から新一を隠す様にして、平次が和葉を追い払おうとしますが、
        和葉の目すら見れば、それは新一の側にいる蘭との邪魔をするなと言っているかの様でした。
        「あっ、あんた何考えてんの!? 蘭ちゃんに・・・。」
        「待てっちゅーとんじゃアホ!!
        ・・・おい工藤!! お前、人の幼なじみに手ぇ出しておいて、
        その姉ちゃんともよろしくやろうやなんて、一体何者やねん!! ホストか!!」
        和葉を牽制しつつ、平次が新一に小声で怒声を飛ばしますが、
        新一はうんざりとした表情で、更に眉間のシワを深めました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 30>
        「おい、服部。」
        新一が静かに言葉を発し、
        騒ぎを聞きつけて集まり出した参加者達を一瞥すると、
        祭りに戻るよう、氷の微笑で促し、話し始めます。
        「・・・俺が森で出会ったのはこいつで、
        お前が考えている様な事は何もねえ。
        そう言い切れるのは俺が天才だからだ。
        わかったらどっか別の場所で二人で話せ。」
        これ以上ない程わかりやすい、とても優しい説明と依頼の言葉でした。
        まだ釈然としない平次ではありましたが、
        和葉を新一の側から離せる事は願ってもない事です。
        事態がまったく飲み込めていない和葉の腕を取ると、裏庭の方向へと歩いて行きました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 31>
        「あ・・・和葉ちゃん・・・!! もう、何なの!?」
        周囲の展開について行けず、ただ、友人を遠ざけられた事に腹を立て、
        蘭が新一に抗議の声を上げます。
        「大事な時に邪魔が入ったら面倒なだけだよ。」
        「大事な時って・・・?」
        「それは、その・・・。」
        何も理解していない蘭に真顔で問い返され、新一が言葉に詰まります。
        その態度をいぶかしそうに見ていた蘭でしたが、
        やがて、その表情を和らげると、
        「でも・・・良かった、あなたにまた会いたいと思ってたの。」
        新一の葛藤を知る由もなく、
        少し照れつつも、さらりとそんな言葉を言ってのけました。
        遠いとも、短いともつかない、けれどはっきりとした道が姿を現し、
        新一は苦笑いを浮かべて髪をかき上げました。
        「・・・俺もだよ。」
        そうして、二人は笑顔を浮かべ、
        どちらからともなく手を取ると、踊りの輪の中に加わりました。
        話したい事がたくさんあります。
        まだ名前すら名乗り合っていません。
        でもそれはどうでも良い事なのです。
        だって二人は王子と姫となるのですから。
        上手くまとまったとか思ってませんよ。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 32>
        一方、平次と和葉はと言うと・・・。
        「離してよ、平次の変態!!」
        「誰が変態やねん!!」
        「変態やないの、人の事閉じ込めて蘭ちゃんにちょっかいかける様な真似して!!」
        中庭とは違い、一般公開されていない裏庭の静けさを台無しにするかの如く、
        今尚、大々的な口喧嘩を繰り広げておりました。
        「アッ、アホか!! 何勘違いしとんねん!!
        俺があの姉ちゃんを連れて来たんは、工藤に頼まれたからや!!」
        さすがは探偵、今は側近だけど探偵、
        知らなかったにも関わらず、上手く行動の帳尻を合わせます。
        「工藤・・・王子様に・・・?」
        「せや、工藤が森で会ったのはあの姉ちゃんで、
        あの姉ちゃんを気に入って、あの姉ちゃんを探しとったんやからなぁ。」
        新一が探していたのは和葉ではなく蘭であると、しっかりと印象付ける事も忘れません。
        ・・・しかし、だとすると、自分の心配は何だったのか、平次はふと考え込みました。
        そこに和葉の言葉が流れ込んで来ます。
        「わ、わかっとるよ、あたしかて蘭ちゃんの為にちゃんと調べたんやから!!」
        「な、何やて!?」
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 33>
        そこで平次は新一の言葉を思い出すと共に、
        ようやく、自分の勘違いに気づきました。
        新一の想い人は蘭で、
        和葉もまた、自分と同じ様に、
        友人の蘭が森で出会った少年を探していただけだったのです。
        「やっと巡り会えたっちゅう訳やな・・・。」
        てめえでややこしくしておいて映画風にまとめてんじゃねえよ。
        「ちょお、何一人で納得しとんの!?
        あたしもあんたも蘭ちゃん達を会わせようとしてたんはわかったけど、
        せやからって、何であたしの事閉じ込めたりしたんよ!!」
        「それは・・・せや、お前、何抜け出しとんねん!!
        今日は家におれって言うたやろ!!」
        「・・・・・・。」
        平次の怒声を受けて、和葉が唇をかみしめます。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 34>
        「おい・・・。」
        和葉の様子に、平次が慌てて声をかけますが、
        その時にはもう、和葉の瞳は泣き出す一歩前の光をたたえていました。
        「・・・何でなん? こっちに来てからあんま出歩くな言うたり、
        お付きの人つけたり、部屋に閉じ込めたり・・・。」
        「そ、それは・・・。」
        君が出歩いて他の男が粉かけるのが心配なんだよーん、とは死んでも言えません。
        「・・・こっちで、あたしと係わり合いがあるって他の人に知られるのが嫌なん?
        そんならあたし、西の都に帰るから・・・。」
        「なっ・・・。」
        「あたしの事、嫌いなら嫌いって、はっきり言うて・・・。」
        いつも強気な和葉でしたが、ここ最近の平次の態度は腑に落ちず、
        思いついた考えのまま、ただ迷惑にだけはなりたくないという一心で、
        必死に涙をこらえつつ、そんな言葉を口にしました。
        つづく


        <短期集中連載・恋のから回り 35>
        「アホ・・・。」
        うつむく和葉の腕を取ったまま、平次が苛立った声を上げます。
        「平次・・・・・・?」
        「い、色々、心配やっただけや。こっちは治安も良うないし・・・。」
        どうしてそう、回り道を歩くんだお前は。
        「心配・・・? 嫌なんやないの・・・?」
        潤んだ瞳を見開いて、和葉が平次の顔を見上げます。
        「・・・お前の事、そんな風に思った事一度もない。一生思わん。」
        「・・・・・・。」
        嫌われたら辛い、嫌ったと思われたら辛い、
        お互いの感情の意味をもっと深く考える事が出来れば、その距離ももっと縮まるのでしょうが、
        今はただ、取られた腕を、取った腕を気にしつつ、
        誤解であった事だけを喜ぶ二人が裏庭にたたずんでいます。
        「せやから西の都に帰るなんて言うな。・・・ここにおれ。」
        自分の側に。
        一つの言葉を飲み込んでそう告げると、
        泣きそうだった和葉がようやく微笑み、
        「うん・・・。」
        と、小さいけれどしっかりとした返事を返しました。
        その笑顔の美しさに再び心配になった平次が軟禁計画を企てたとか書くと、
        ラストが台無しになってしまうので、
        ・・・また、新たな物語が始まろうとしています。
        こんな文章でラストを迎えたいと思います。
        終わり


        <当時の後書き>
        シェイクスピア目指してたっつーのはここだけの話。
        マージーかーよー。
        いや、ドレスと勘違いが出てくればシェイクスピアかなーと。
        勘違いはお前の頭だ。
        これはもう、三年以上前、平和にはまり始めた頃、
        パラレルとか色々考えた時に思いついたネタなのですが、
        「ベイカーランド」に本気で萎えたんだよな当時・・・。
        「新蘭メインと見せかけた平和」のつもりが、
        新蘭に比べると平和は照れもあって、結局新蘭ティックな、
        どうにもこうにもグダグダな話になってしまいました。
        パラレルならもうちょっとくっつけても良さそうなのにな。
        でも四人全員が勘違いする訳じゃなくて、平和だけが勘違い、
        お前らが邪魔しなきゃ簡単な話なんじゃねぇの? 的な雰囲気は書いてて楽しかったです。


        <現在の後書き>
        シェイクスピアはやっぱり図々しいってハナさん。