<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 1>
明治・・・いや、昭和初期にしとくかな、
山奥に位置し、人口が少なくはあるものの、豊かで美しい村がありました。
金田一が呼ばれそうな雰囲気だけど、殺人事件は起こらない、そんな感じの村な。
村が豊かなのは、その村の名士である服部平蔵が、全国規模の山林王だか鉄道王だかである為で、
故に、村の名前は服部村。安直。
平蔵には幼なじみで仕事の片腕でもある、遠山という男がおり、
平蔵の一人息子の平次と、遠山の一人娘の和葉は、同じ年にこの世に生を受けました。
その事から、平蔵と遠山は互いの財産を外に出さない事を考え、
二人を生まれながらの許婚と定めました。せこい理由だな。
そうして、十七年の歳月が服部村に流れます。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 2>
「和葉、平次君は今年の祭りで太鼓叩く事になったんやろ?
練習、ちゃんと見に行ってあげるんやで?」
夏休みを前にした終業式の日、
父の言いつけに従い、和葉は学校の帰り道、村の神社へと向かいます。
祭りの準備、神社、セーラー服、それだけで胸がときめくのはあたしだけでしょうか。
「平次、婚約者が来とるで?」
「遠山のお嬢さんやろ? えらいべっぴんにならはったなぁ。」
「もう接吻くらいはしたんか?」
木陰にて、自分達の練習を見つめる和葉を目ざとく見つけ、
村の若い衆が平次をからかいます。接吻て。
「じゃかぁしい!!」
周囲の人間を一喝すると、平次はすぐさま和葉の元へと行き、
「邪魔や、帰れ。」
と、そっけなく言い放ちました。
「・・・・・・。」
和葉は一瞬、何事か言い返そうと口を開いたものの、次の瞬間には悲しそうに目を伏せ、
平次の言葉に従い、神社を後にしました。
うわー、この服部硬派すぎ、和葉大人しすぎ、まさにパラレル。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 3>
幼い頃から決められていた婚約、
父の言いつけである以上、和葉はその話に異論はありませんでした。
それが当たり前だと思っていましたし、
幼なじみである平次の事も、嫌いではなかったのです。
けれど、平次の方は、年々、和葉に対する態度が硬化して行く様でした。
自分との婚約話が嫌なのだと、
和葉は薄々気づいていましたが、自分にはどうする事も出来ません。
ただ、幼なじみに嫌われた事を悲しく思っていました。
・・・昔はあんなんやなかったのに・・・・・・。
平次と仲良く遊んだ小さい頃の思い出を胸に、
和葉は村はずれの丘にある墓地に向かいました。
村を見下ろす高台にある墓地には、和葉が幼い頃にこの世から旅立った母が眠っているのです。
悲しい事があった時、墓地とはいえ、見晴らしの良い、美しい木々に囲まれたこの場所に来ると、
和葉の心は不思議となごむのでした。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 4>
「・・・・・・。」
墓地の入り口にて、中に人影を見つけ、和葉はその足を止めました。
普段、めったに人の姿を見る事のない、
いたとしても老人ばかりであるこの場所に、見知らぬ青年の姿があった為です。
別の土地の人間がなかなか入り込む事のない村でしたから、
眉をひそめつつ、和葉はしばし、どうしたものかと考えあぐねました。
青年が、和葉の方へと振り返ります。
二人の瞳が交錯し、自分を見る、青年の瞳に、和葉の胸に不思議な感覚が走ります。
歳は三十前後でしょうか、痩身で、冷たい目をした、けれど妙に存在感のある青年です。
「・・・・・・。」
自分がしばし、青年の瞳を見つめ続けていた事に気がつくと、
和葉は無礼を詫びる様に軽く頭を下げ、母の墓前へと向かいました。
途中で摘んできた花を供え、軽く掃除をして、手を合わせる間、
青年はまだ、こちらを見ている様な気がします。
本当はもっと、長居をしたい気持ちがあったのですが、
居心地の悪さを感じ、和葉は墓地を後にしようと立ち上がりました。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 5>
「待て。」
墓地を出ようとした所へ、急に声をかけられ、和葉の体がこわばります。
「・・・そう怖がらずとも何もしない。
俺は旅行者なんだが、どこか宿を知らないか?」
青年は、冷たい瞳に見合った低い声ではありましたが、
それでも幾分か、柔らかな声を出そうと努めている様でした。
ぶっちゃけ、かっこつけてるけど迷子です。
そんな様子にやや警戒心を緩め、生来の気の強さも手伝って、和葉は笑顔で振り返りました。
「別に怖がっとらんよ。宿屋なら村外れに一軒あるから案内するけど、
こんな所に旅行に来るやなんて、随分変わった人やね。」
和葉の受け答えに、青年は唇の端を吊り上げて薄く笑い、
高台から村を見下ろして一言、つぶやきました。
「景色が良い。」
和葉の胸に再び、不思議な感覚が走ります。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 6>
村外れには履物屋との兼業で、一組の老夫婦が営む宿屋があります。
おそらくは都会から来たであろう青年を泊めるにはいささか不釣合いかとも思いましたが、
他に心当たりもなく、和葉は店の前まで青年を案内しました。
「そんなら・・・。」
どこか気後れして、話らしい話も出来ず、
和葉はそう告げて、その場から去ろうと歩き出しました。
「名前は?」
背後から、青年の声が響きます。
「・・・遠山和葉。・・・あんたは?」
「赤井秀一。」
赤井は青年というくくりで良いのでしょうか。少なくともジンは違うよな。
まぁ、三十前後のちょっぴりキザなクールガイって事で通させて下さい。髪は短い版で。
そうしてそのまま、店の前で二人は別れました。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 7>
翌日から学校も夏休みに入り、村全体の祭りの準備にも殊更力が入ります。
父は相変わらず、平次の練習を見に行くよう勧めましたが、
和葉はそんな気にもなれず、村の中をぼんやりとさまよいました。
緩やかな流れの小川を見下ろす小さな橋、
そこへ向かった時、橋の上で昨日会った青年、赤井秀一の姿を目にします。
「・・・・・・。」
彼の宿泊先を知っている以上、後をつけたと思われるのも嫌だと感じ、
和葉は橋へ向かうのを止め、少し遠回りして、
村の南西の山の麓にある、ひまわり畑へと向かいました。
鮮やかな、ひまわりの群集の中、ただたたずんでいると、
そこに、一人の人影が現れました。
赤井秀一です。
「・・・・・・・。」
小さな村とはいえ、こうも偶然が重なるはずがありません。
一つの考えが胸を過ぎり、和葉は直情的な性格のままに、その考えを口にしました。
「・・・あんた、あたしのお母ちゃん、知っとんの?」
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 8>
緩やかな流れの小川、見事な大輪の花を咲かせるひまわり畑、
それはどれも、死んだ母のお気に入りの場所だったのです。
そして昨日、秀一と初めて出会った場所、あの時、彼がいたのは、もしかしたら・・・。
「目が似ているな。」
沈黙に、はやり過ぎた考えかと、和葉が頬を紅潮させた時、
秀一が返したのはそんな言葉でした。
「・・・俺は妾腹でな、母親が死んだ後、親戚の家をたらい回しにされて、
子供の頃、この村に一年、いた事がある。」
生い立ちのせいもあり、無愛想な子供である秀一に、
周囲の人間は殊更辛くあたりました。
そんな中、秀一が預けられた家の近くに住んでいた和葉の母だけは、
小さな秀一に優しくしてくれたのです。
そんな思い出を、秀一はぽつりぽつりと和葉に語りました。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 9>
「・・・あんた、いつまでここにおるん?」
「祭りの頃までかな。」
祭りは、三日後です。
「・・・そんなら、あの、用事がなかったらやけど、
時間の空いてる時、会って貰てもええ?
その、お母ちゃんの話、聞きたくて・・・。」
ふいに、そんな言葉が、和葉の口をついて出ました。
理由は、後から慌てて付け足した言葉の通りでしたが、
それだけではない気持ちがあった様にも思います。
「お前に話せる程、俺はお前の母親について何も知らない。」
素っ気ない秀一の返答に、和葉の瞳が曇ります。
「だが、別に用事もない身だ、お前が来たいと言うなら俺は構わない。」
ごめん、こういうキャラ書いた事ないからすんげぇ恥ずかしい。
それはともかく、そんな秀一の言葉に、和葉は満面の笑みを浮かべ、
「うんっ!!」
と、元気良く言葉を返しました。
可愛い女子高生の頼みを断る男はいないのです。
そういう事言うなよ。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 10>
それから二日、和葉と秀一は、和葉の母の思い出の場所で逢瀬を重ねました。
秀一は相変わらず無口でしたが、
それでも、互いに交換する和葉の母の思い出に、
二人は心地良い、柔らかな時間を共有していたのです。
「そんならまた明日・・・来てもええ?」
「好きにしろ。」
「うん・・・好きにする。」
うわ、やばい、可愛い。
ごめん、自分で書いてて。
そうして、秀一と別れた和葉が自分の家へと向かい、神社の前を通りかかった時です。
腕を組んで石碑にもたれ、そこに平次がたたずんでいました。
「・・・・・・。」
三日前の平次の態度を考えれば、ここは黙って立ち去っても、自分に非はないはずです。
それ以外にも、どこか後ろ暗い気持ちがあり、
軽く頭を下げると、和葉は平次の前を通り過ぎようと足を速めました。
しかし、そんな和葉の腕を平次が強くつかんで引き止めます。
「痛っ!! 何やの!?」
和葉の抗議に構う事なく、平次は和葉の腕を引き、神社の石段を上り始めました。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 11>
「平次!! 痛い!! 離して!!」
和葉の言葉を聞き入れる事なく、平次は和葉を人気のない境内に連れ込むと、
その体を杉の大木へと、押し付けました。
大丈夫、別にエロい展開にはならないから大丈夫。
「平次!!」
「・・・毎日毎日、よそ者と何しとんねん。」
「・・・・・・。」
小さい村の事です、秀一との事を平次が知っている事に対し、
和葉は特に驚きはしませんでした。
ただ、見上げる平次の、明らかな怒りの理由がわからなかったのです。
でもパラレルとはいえ、二日は我慢した方だって服部君。
「・・・あの人は、よそ者とちゃう、昔、この村におった人やもん。」
気丈に平次を睨み返し、和葉はそう言葉を返しました。
「それでも、毎日男とおって、それがこの村でどういう噂になるか、
お前もわからん歳やないやろ。」
苛立ち混じりに投げられた平次の言葉に、和葉の体が一気に熱くなります。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 12>
「う、噂って、あの人はそんなんやないわ!! 変な事言わんといてよ!!」
いきり立つ和葉の言葉に、一瞬だけ、平次の瞳に安堵の色が走ります。
けれど、和葉がそれに気づくよりも速く、平次はその色を隠し、
「俺の立場も考えろ。」
と、厳しく言い放ちました。
「・・・っ!!」
その言葉に、和葉は自分を押さえつけていた平次の手を振り払います。
「立場って何!? 婚約の事、あんたが嫌がってるのなんてずっと前から気づいとったわ!!
立場考えて二の足踏んだり、ぶつぶつ言うたりせんと、
あたしが嫌なら嫌って、はっきりおっちゃんに言うたらええやないの!!」
「この・・・っ!!」
和葉の言葉に、平次は振り払われた手で再び和葉の肩を押さえつけ、
無理矢理、その唇へと、自分の唇を近づけました。
「や・・・っ!!」
寸前で和葉の平手が平次の頬を打ち、その行為を差し止めます。
パラレル服部の情熱チッスはいつも上手く行かない。
でも通常服部ではそんな展開にすらならない。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 13>
「・・・・・・。」
打たれた頬を押さえる事なく、自嘲気味に眉をひそめながら、平次が黙って和葉を見つめます。
その手はもう、和葉の体を解放していました。
和葉はそんな平次の瞳に戸惑ったまま、声を張り上げます。
「いっ、勢いだけで変な事せんといてよ!!」
そのまま神社の境内を後にし、
その足は自然と、自分の家ではなく、秀一の宿へと向かっていました。
「・・・俺の部屋は駆け込み寺じゃないんだがな。」
ごめん、こういうキャラ書いた事ないからすんげぇ恥ずかしいパート2。
突然宿の部屋に現れた和葉に対し、秀一が無表情でつぶやきます。
「そんな言い方せんかてええやんっ・・・!!」
それが、部屋に入るなり泣き出してしまった自分を扱いかねての言葉だとは気づかずに、
ただただ大人なのだと、大人の意見なのだと考えて、
寂しいながらも、そんな秀一に甘える様に、和葉は泣きじゃくりました。
やばい、可愛い。
いい加減にしろ自分。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 14>
「あたしの事、嫌いな癖に・・・あんなん・・・わからへん・・・っ。」
気がつけば和葉は、自分と平次との事情を、秀一へと話していました。
「けど、きっともう、婚約解消やわ、それが一番ええんよ・・・。」
自分に言い聞かせる様に話す和葉の言葉を、秀一は黙って聞いていました。
窓の外の景色は段々と、宵闇をまといつつあります。
BGM「越冬つばめ」
しかしあの歌の男は「娘盛りを無駄にするな。」と、
一旦は背を向けるのに、その後抱くんだよなー。納得行かねえ。
いや、ここでは抱くまで行きませんが、
ふいに、秀一がつぶやきます。
「・・・それなら、俺と来るか?」
「え?」
「明日の、祭りの前には俺はこの村を出る。
どうせ婚約はなくなるんだろう? すべてを捨てて俺と来れば良い。」
「・・・・・・。」
突然の、秀一の言葉が、低い速度で、和葉の胸へと落とされました。
これは「名探偵コナン」の二次創作です。多分。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 15>
一度は家に帰り、和葉は自分の部屋へとこもりました。
平次が言った事や、平次との事を、父親に何か言われるかとも思いましたが、
父親は何も知らない様でした。
障子越しに揺れる木々を見つめながら、甘い、けれど深い、胸の痛みと戦います。
平次と結婚すると、幼い頃から言われ、それが当たり前だと思っていました。
仲良しの幼なじみとの、それが恋なのだとも。
けれど、秀一に会って、自分を見つめるあの瞳を知って、
自分の中に芽生えた気持ちにも、和葉は気づいていました。
これを、恋と呼ぶのでしょうか。
翌朝、和葉は静かに、自分の家を抜け出しました。
秀一は、始発の汽車で旅立つと言っていたのです。
明け方の道を走り、無人駅へと飛び込むと、
秀一は人気のないホームで、汽車に乗り込む所でした。
その瞳が、無言で和葉をとらえます。
「あたし・・・っ!!」
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 16>
汽車の入り口に立つ秀一に、その手を伸ばし、和葉は必死に告げました。
「あたし・・・あんたと一緒には行けへん・・・っ!!」
言葉と共に、涙がぽろぽろと溢れ出します。
「何も・・・何も捨てられんの。
この村も・・・お母ちゃんとの思い出も、お父ちゃんとの生活も・・・何も、何も・・・。」
その言葉と共に、幼なじみの顔が、頭を静かによぎって行きます。
「あんたの為に、何も捨てられんの・・・ごめんなさ・・・。」
すがる様に秀一の体に手を添えて、和葉がゆっくりと頭を下げます。
「それで良い。」
秀一が、静かにつぶやきます。
「・・・俺は、お前の母親が好きだった。」
「・・・・・・。」
和葉がゆっくりと、顔を上げます。
心のどこかで、予感していた事でした。
「俺がこの村を出たのは十八年前、お前の母親が嫁ぐ日の朝だ。」
「・・・・・・。」
母が父に嫁いだのは、夏祭りの日でした。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 17>
「風の噂で、あの人が亡くなったと聞き、この村に戻って来た。
・・・そして、お前と出会った。」
母の墓で、初めて出会った事を思い出し、和葉が瞳を細めます。
「俺はお前にあの人を重ねて、お前はそんな俺の視線に錯覚を覚えただけだ。
・・・何も謝る事はない。」
二人の間に流れるものが恋ではないと説き、秀一が和葉の髪を優しく撫でます。
「昨日泣いた理由も、今日旅立てない理由も、お前はもう、わかってるはずだ。」
「え・・・・・・?」
戸惑う瞳の和葉を、軽く秀一が突き放します。
ホームに汽車の発車音が鳴り響きました。
「会えて良かった。」
「あた・・・あたしもっ・・・!!」
汽車が動き始めます。
まだ何か、言う時間は充分にあったものの、
和葉はそれ以上、何も言う事が出来ず、
二人はただ、瞳と瞳で別れを告げました。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 18>
「・・・・・・。」
汽車が見えなくなるまで見送り、和葉は泣きはらした目をこすりました。
これからまだ、考えなければならない事がたくさんあります。
そうして、和葉がゆっくりと振り返った時でした。
だかだかと激しい音を立てて、誰かが駅へと飛び込んで来ました。
「和葉っ!!」
「へ、平次・・・。」
息を切らせた幼なじみが、物凄い形相で自分へと向かって来ます。
「・・・・・・!!」
昨日、神社で殴りつけた事を思い出し、
きっとその仕返しをされるのだと、和葉は目をつぶり、身をこわばらせました。
激しい足音と息遣いが耳元へと届き、和葉が覚悟を決めた時です。
「この・・・アホ・・・ッ!!」
小さな平次のつぶやきと共に、和葉の体は、平次の腕に抱きすくめられていました。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 19>
「な・・・へい・・・・・・。」
あまりの事に、頭が上手く働きません。
和葉は呆然と、自分を包み込む平次の温度を感じていました。
「あいつの後、追うつもりやったんか・・・?」
「な・・・・・・。」
静かに、平次が問い掛けます。
答えあぐねる和葉から身を離し、今度は両肩をつかむと、
平次は和葉の瞳を真っ直ぐにとらえ、声を荒げました。
「行かせんからな!! お前は俺の許婚や!!
いや、そんなんなくても、俺はお前を離さん!! 他の男になんか絶対に渡さんからな!!」
「平次・・・?」
目を見開いて、和葉は平次の瞳を見つめ返しました。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 20>
平次と結婚すると、幼い頃から言われ、それが当たり前だと思っていました。
仲良しの幼なじみとの、それが恋なのだとも。
けれど秀一に会って、和葉はそれが恋ではないと知りました。
秀一の瞳に宿るもの、そして、それを見返す自分の瞳に宿る感情こそが恋だったのです。
けれど、それはお互いの錯覚によるものでした。
それでも、百聞に一見が勝る様に、和葉は「恋」の形を知ったのです。
そしてそれは、あの日、神社の境内で自分を見つめた平次の瞳、
今まで自分を嫌っていると思っていた平次の瞳にも、はっきりと宿っていました。
そうして流れた涙も、旅立ちをこばむ感情も、すべて平次に向かうものでした。
自惚れかもしれない、勘違いかもしれない、
まだ、臆病な心がそう伝えもしましたが、
それでも、それを確かめ合う存在は、目の前にいるのです。
自分を包み込んでいるのです。
つづく
<短期集中連載・ハナ王 愛の劇場 不可視の夏 21>
「・・・一緒に、行けんかった・・・。」
「当たり前や、絶対に許さんからな。」
和葉の瞳から、再び涙が溢れ出します。
その真意をはかりかねて、平次は少し困った様に眉をひそめました。
行けなかった理由を、伝えなければ。
そう思いつつも、和葉はそれ以上、何も言う事が出来ず、
自分の肩をつかんだままの平次の胸に身を寄せました。
「な・・・・・・。」
一気に身を硬くした平次の、体温と息遣いと鼓動が、和葉の体に伝わります。
今はただ、こうする事しか出来ないけれど、
いつかきっと、伝えられる日が来るのでしょう。
遠くで、夏祭りが始まりの音を奏で始めました。
終わり
<当時の後書き>
狂ってなんていませんたら!!
前に昼メロで一本書いたので、ハナ王シリーズっぽくしてみましたが、
昼メロというよりは、昔の日本映画な雰囲気に・・・。
ベタっすか? ベタ好きなんだもん、しょうがねえじゃん!!
旧家とか村祭りとか許婚とか好き好き要素を入れまくってぇぇぇ!!
あたしが一時期、和太鼓を見たいと言っていたのは、
服部が練習するシーンがあるからなのですが(それだけかい。)、
あの時は真面目に形にする気があったのだろうか・・・。
今回のポイントは、服部にお熱(大爆笑。)じゃない和葉。
親の言いつけに従うのが当然だと思っていて、
でも赤井と出会って、それが当たり前ではないと気がついて、
そんな和葉に焦る服部というのが書きたいなぁと・・・(メイン。)。
和葉も服部も、微妙に性格がおかしいですが、
何よりおかしいのは赤井・・・作りまくり。
うわーん、だってだって、冷たい男と和葉、っつー組み合わせが書きたかったんだもん!!
展開を速くする為、心開きまくりの喋りまくりでしたが・・・。
はっきり言って、途中まで服部の存在を忘れる程に楽しんでしまいました。
途中から「そういやまがりなりにもウチは平和サイトだったな。」と思い出し、
平和に軌道修正しましたが、あやうく汽車に乗せてしまう所でしたよ・・・。
まぁ、ハナホン平次はパラレルであれ、地獄の果てまで追い掛けるのでしょうが・・・。
<現在の後書き>
赤井と宮野姉さんの関係を知った今では申し訳ない限りです。