貴方へと続く夜 6


        「・・・か・・・。」
        早まる心臓を落ち着かせ、
        平次が、何とか言葉を返そうと口を開きかけた時である。
        言葉を受けるべき幼なじみは、
        雪の恩恵を受け、口をついて出た素直な言葉を、
        相手の沈黙により、じっくりと自分の中で反すうする機会を得てしまい、
        また、その沈黙に、どんどん勇気を吸い取られ、
        次の瞬間には、平次より早く、こんな言葉を発していた。
        「あ、あたしは、平次のお姉さん役なんやしっっ!!」
        ピシッ。
        平次の眉間に、音を立ててシワが寄る。ついでに青筋も少々。
        この女・・・・・・。
        上機嫌から不機嫌、天国から地獄、十万円五万円運命の分かれ道、
        様々な言語が瞬く間に脳裏をよぎる。
        結局ソレかい、と、和葉の言葉にため息をつくが、
        傍らで、和葉もまた、
        素直で無い自分を反省して、ようやく素直な言葉が出たと言うのに、
        結局コレや・・・と、ため息をついている事には気がつかないのだった。


        「・・・腹減った。はよ帰るで。」
        無愛想につぶやいて、平次が足を速める。
        和葉にしてみれば、素直な言葉には沈黙され、
        焦ったが故の弁解の言葉にも、さして気にとめる様子は無く、
        そんな言葉を口にする平次は、鈍感以外の何者でも無い。
        一人でアホみたいだと思いはするのだが。
        でも、まぁ・・・。
        「しゃーないなぁ。」
        苦笑いを一つ、そうつぶやいて隣りに並んだ。
        何とかの弱み、というやつである。
        「晩御飯、鍋やで。」
        「何や、オッサンら来るし、あとは酒の肴みたいなモンばっかやろ?
        何かこう、すぐに腹にたまる様な物無いんか。」
        「んー、ほんなら、おにぎりか焼き飯でも作ったるわ。」
        「焼き飯。」
        「はいはい。」
        他愛の無い会話を繰り広げながら家路へと歩く。
        和葉とのそんな会話に、些細な幸せを感じてしまって、
        つい先程、再び不機嫌の淵へと落とされたばかりだと言うのに、
        我ながら安上がりな男だと、平次は思うが、
        真横に並ぶ幸せが、値の付けられない存在なのだから仕方ないとも思うのだった。


        「それにしてもよう降るなぁ・・・積もるかな。」
        「お前、雪が嬉しいんやろ、ガキやなー。」
        相変わらず舞い落ちる雪を、嬉しそうに見上げる和葉に、
        再び目を奪われそうになるのを抑えて、
        いつもの調子で、意地悪くからかってみせる。
        「え、ええやん別に!! 久しぶりなんやし!!」
        平次に図星をさされて、静華の事は笑えないと、頬を染める和葉に、
        「・・・ほんなら、遠回りして帰るか。」
        と、平次にしては、精一杯の一言。
        しかし、
        「はぁ? さっき腹減ってるからはよ帰るって言うたばかりやないの。
        それにあんた、風邪ひいとんのやろ?
        さっさと帰って、今日は暖こうして寝なあかんよ?」
        と、彼の「お姉さん役」は一気にそうまくしたてるのだった。
        その冠があろうと無かろうと、心配してる事に変わりは無く、
        心配が余計では無いと、言った事も事実なのだが。
        だが、しかし、やっぱり、
        「鈍い女や・・・。」
        つぶやかずにはいられない。
        「は? 何か言うた?
        まったく、さっきから訳のわからん事ばかり言うて、ボケたんやないやろね?」
        平次のつぶやきが耳に届いていたら、
        それだけはあんたに言われたくないと怒鳴り返していたであうろう和葉が、
        怪訝な顔で問い返す。
        「ボケはお前じゃ。」
        「何やて!!」

        希少な雪はしんしんと、街の音を消しながら降り続いていたが、
        そんな事はものともせず、一組の男女は言い合いもにぎやかに、雪の中を歩いて行く。
        すれ違いの数々を繰り返しながら。
        それでも、

        貴方へと続く夜。
        貴方と共に帰る夜。

        終わり


        さて、まずはありがとう、あるっち!! イエー。
        突然何をって感じだが、ここまで読んで下さった方ならば、
        途中にある、あの素晴らしき挿し絵を目にされた事でしょう。
        そう、あの挿し絵は、ウチとリンクして下さっている、
        「石庭酒家」さんのあるふぁさんが描いて下さったものなのデース!!
        思い起こせばいつだったか・・・
        お互い色々と闇取引をしまくったせいで、実はいきさつを憶えていないのだが(最低。)、
        あるっちにイラリクを出来る権限を与えられ、あたしはコナンが範疇の彼女に、
        「平和ったら平和!! 平次→和葉、な感じで!!」
        と、すげぇダイレクトなリクエストをかましたのです。
        そんなザッパーなリクエストに、返って来たのが、
        あのステキなイラスト・・・!! えれぇムーディ!! ああん、ハナ幸せーーーっ!!
        えらいぞすごいぞよくやった、リクエスト権を得た昔のあたし!!(あるっちやないんかい。)

        そんな訳で、そのステキイラストに、
        図々しくも、「創作つけても良い?」と、申し出た所、
        あるっちは快く引き受けて下さったのでした。重ね重ねありがとうあるっち!!
        コナンではあまりラヴ畑な人間じゃないのに、
        ラヴ旋風に巻き込んだ挙げ句、ときキャン合作させちゃってごめんな!!
        でも二人の初めての共同作業・・・えれぇ嬉しかったデース!!
        そんな訳で、雪の中の二人・・・ってな感じで、
        創作を始めた訳ですが、長ぇ・・・長すぎ。
        よもやこんなに長くなるとは、自分でも思いませんでした・・・チョホホ。

        刑事が自宅で打ち上げするのかとか、その際、一斉に酒飲むのかとか、
        何かもう、警察関係に詳しい方からツッコミ受けたらイヤンな感じですが、
        まぁ、これからもお勉強頑張って下さいって事で・・・(お前がしろよ。)。
        静華と和葉は仲良さそうだなって事で、
        いつもこんな感じで助け合って、コンビネーション見せていそうですが、
        この状況で遠山母が居ないのは不自然でございましょうか。
        今の所、登場せずだからなぁ・・・。

        平蔵が電話して来たのは、息子が管轄外の現場に首突っ込んでたら、
        組織的に、一応挨拶せなアカンなぁって事で、息子の心配はまったく・・・。
        彼が息子の事件参加を推進してるのか反対してるのか、微妙な所ですが、
        取りあえず、推進しつつも顔には出さないって所でございましょうか。
        静華も平蔵同様、放任主義と、息子への信頼感から、
        あまり息子の体調や怪我の心配はしていないという・・・何せテッチリ。東京来たけど。

        対する和葉は、原作同様の思い込みの激しさで、もう駄目ですね、抑えがききません。
        信頼はしているんだけど、今までが今までって事で・・・
        服部+事件=負傷・・・確率高すぎ。
        そんな訳で、ウチでは平次→和葉ちっくにしたいと思いつつも、
        キャラのイメージ的にどうしても抑えが・・・夜の街へと飛び出してしまいました・・・。
        でも負けずに平次にも想わせるぜ!! って事で、頑張るあたし。
        しかし・・・あの状況で、照れ隠しの言葉を真に受けて、
        自分の心配はしてないと曲解する西の名探偵・・・幼なじみに関しては推理力働かんのです。

        そしてそこからは、すれ違いのオンパレード・・・じれじれ作家の本領発揮です。
        三人称の楽しさが、ようやくわかり初めて来た今日この頃ですが、
        思いがコロコロ移り変わって、わかりにくい上にくどいっすかね。
        お互いちゃんと考えがあっての言動を、誤解しまくってすれ違う・・・
        ああ、書いてて楽しい!! ・・・って、鬼かあたし。
        そして雪降って来たあたりから、台詞だけを読んで行くとあら不思議!!
        原作並みの、朴念仁平次がそこに!!
        ・・・いかにあたしが奴の言動を深読みしているか、バレバレな一品っすな!!
        でも全体読むと、かなりお互い様っつーか、和葉に問題あり?

        初めの方で、和葉はある単語を思いついてしまって、
        「家族の様な」という台詞が言えないのですが、その単語、
        終わりの方で、しっかり平次も考えているのです。わかるかな?(偉そうに出題すんな。)
        でもまぁ、この単語とか、好きとか、惚れたとかも、
        どうにもあたしは使い慣れないっつーか、使えない・・・誤魔化してる部分多々あり。
        和葉の気持ちなんて、ほぼ確実にも関わらず、
        「想いを寄せてる」程度の表現でも悩むあたし・・・じれじれの呪いでもかかってんのか?

        タイトル、冒頭の謎詩が和葉の想い・・・って感じなので、
        和葉サイドと思わせつつ、ラストは二人の感情が混ざり合う訳で、
        結局、「貴方へと続く夜」は、お互いなのでした。うーん蛇足。

        最後に、この創作はもちろん、ステキイラストを下さった、
        あるっちに捧げさせて頂きます。
        ありがとうあるっち!! お前が好きだーーーっっ!!(衝撃告白。)
        良ければまた・・・(それが狙いか!!)。