雨音は変わらず 2
「桜・・・散ってまうね。」
神社の桜ももう、盛りは過ぎていたが、
今日の雨によって最後の花びらを落とされて行く姿を偲んでか、
先程までの憤りはどこへやら、和葉が寂しげにつぶやく。
「・・・別に、花は桜だけやないやろ。
これから咲く花もぎょうさんあるし、色々楽しんどる内に桜かてまた咲くわ。」
和葉の言葉に思考の淵から引き戻され、
いささか焦りつつも、平次は率直な言葉を返した。
「・・・・・・。」
一瞬、驚いた様な表情を浮かべた和葉だったが、
次の瞬間には何故か優しい微笑みを浮かべて平次を見上げて来る。
その真意を測りかね、平次はたじろいたが、
妙に大人びて見える、その微笑の根底には、
わかった様な事を言う弟に対する姉の精神が流れているのではないかと考え、両肩を下げる。
「それにしても、お参りしたらすぐ帰るつもりやったのに、
雨、全然やまんね・・・。」
黙り込んでしまった平次との間を埋める為か、そんな事を言いながら軒下から手を伸ばし、
「こんなに降るとは思わんかった。」と言葉を結ぶ。
放課後の騒動に気圧されて帰ったとはいえ、
ここにいる根本的な理由は参拝で、
今現在、父親が関わっている事件が長引いている事を憂えての事だろう。
良い気質だと思うと同時に、微妙な悋気心が顔を出し、
子供じみた自分の気性を改めて痛感する。
別に、やまんでもええわ。
無意識に、口をついて出そうになった言葉は、
その気性故か、そこから抜け出そうとする焦燥故か。
降りやまない雨の中、このまま一緒にいたいと思う気持ちは子供じみたものでも、
口にすれば確実に何かを変えるだろう。
変えたくない事と、変えなければならない事。
線引きはなされているはずなのに、
互いに影響しかねない複雑な事情が二の足を踏ませる。
何よりの理由は、相手の気持ちがわからないの一言に尽きるが。
自分らしからぬ、情けない考えだと思うと同時に、
そこまでの感情を引き出す事柄なのだと答えを添える。
そのまま遠くの空を仰げば、
何を思っているのか、傍らの和葉もそれに習った。
そして、雨音は変わらず。
雨音は変わらず。
終わり
何で二回言うねん(自分で自分の創作を台無しにする女。)。
高校に入学して数日後の出来事。
平次は中学時代から剣道でも有名っぽいけど、
教室があふれ返る様な騒ぎというと探偵の方が似合うので、今回は探偵メインで。
和葉は人垣の女子を気にしつつ、
原作よろしく何事か言って引っ張り出したり、
調子に乗るなと平次を怒ったりするのが日常かなぁと思うのですが、
時と場合によっては何も出来なかったりする事もあるんじゃないかなぁと。
そして、そんな和葉を探して走り出す平次。
唐突な情熱!!(それを言っちゃあ。)
平次を囲む、今まで以上の人垣に和葉が遠い世界を感じた様に、
平次もまた、高校入学という節目を区切りに、
和葉に離れられるんじゃないかと不安になったら面白いなと(鬼。)。
そうして発せられる、「離れるんやな。」の一言にはすごく悩みました。容認してるみたいで。
でも、側にいるかどうかっていう話で、
「離れるんか?」とか、糾弾する感じにすると、
その後、重くなっちゃうかなぁと・・・それくらいの展開見せろって感じですが。
やはりお互い、深い意味で言ってない、とらえてないって思ってるのがウチらしいかなと。
桜に対する平次の意見に微笑む和葉。
平次は子供っぽいと思われたと思うのですが、実際は恋心を深めているのです。
「そういう所が好き。」みたいな!! キャー!! ときキャン!!
しかし書く前に映画第七弾を観て、
桜を前にした服部平次の描写には気を使わなければならないと知った春・・・。
くそう!! 「桜の中」とかどうしてくれる!!
でも、この話もあまり気にせずに書いちゃったんだけどね。
ラスト、本当は平次にあの台詞を言わせて、緊迫したシーンのまま終わり、
その後は読者の想像に任せて・・・みたいなのも考えたのですが、
あたしの話じゃ、「何言うてんの? やまなかったら帰れへんやん。」
と和葉が落とす展開くらいしか想像されないだろうなぁと思ってやめました。
まぁ、神社の中、散り行く桜や降り続く雨を見つめる二人・・・
ってだけで、あたしにしては充分ローマンスなので良いかなと。
そんな訳でこの時点では雨音と同様に、関係も変わらない二人でございます。
いつもか。